経団連くりっぷ No.62 (1997年 9月11日)

なびげーたー

実力に見合った自由化による産業構造高度化

国際本部副本部長 角田 博


東アジア経済での為替と株の相乗的下落はファンダメンタルズに見合った為替相場を模索する動きである。産業構造高度化への冷静な対応を求める。

タイの経済は1986年から90年まで年平均実質11.7%の高度成長を遂げてきたが、90年代に入って、賃金上昇等の経済の高コスト化と不動産バブル現象が顕著になっていた。96年に入ってついにバブルが崩壊し、高度成長の膿が一挙に噴き出した。タイ経済に対する市場の信任が揺らぎ、株式市場の低下、タイ・バーツの売りが続いて、7月2日には変動為替相場制度への移行を余儀なくされている。

こうした為替、株式市場の動揺はタイから、シンガポール、フィリピン、マレーシア、インドネシアへと波及し、高度成長を謳歌してきた東アジア経済全体に対する不信感が増大している。

その原因は種々あるが特に以下の2点を強調したい。

第1に、東アジア諸国の経済が大きくなり、グローバル化の波から無縁でいられなくなったことである。ドルに依存した安定的な為替の維持が難しくなったわけで、現在各国経済のファンダメンタルズを正しく反映した為替相場を模索しつつある。しかし、今後は常に為替のオーバーシュートに脅かされることになり、それを前提にした経済活動が求められる。

第2に、人件費等コストの上昇で、各国が既存の産業構造では、国際競争力を維持できなくなっている。東アジアの経済は日本、NIES、ASEAN、中国等が雁のように並んだ雁行形態で発展してきたが、それぞれの国がすぐ後ろを飛ぶ雁に追いまくられており、労働集約型から資本・技術集約型産業構造への移行を迫られている。

日本でも1950〜60年代には景気後退に見舞われる度に高度成長は曲がり角に来たと言われながら、経済構造の高度化で乗り切ってきた。東アジアの各国経済もより付加価値の高い経済構造に移行できるかどうかが成長持続の鍵を握っている。

そのための対策として重要なことは、国内、国際両市場をうまく使うことである。人為的、保護的産業政策によって、新しい産業を育成しつつ、その実力に見合った、あるいは若干早めの自由化を進めて、国際競争の波にさらし、競争力強化を図る必要がある。

APECで自由化が推進されており、そのモメンタムの維持は重要であるが、早すぎる自由化は新しい産業の芽を摘んでしまう。米国で競争至上主義的なマクロ経済学を学んだ優秀な若き官僚が各国の中枢につきつつあり、こうした点への配慮が失われるのではないかと恐れる。

各国ですでにインサイダーとなり、経済の実状をよく知っている現地日本企業の生の声を、各国政府によく聞いてもらう必要がある。


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