経団連くりっぷ No.64 (1997年10月 9日)

経団連提言/9月16日

「農業基本法の見直しに関する提言」をとりまとめ


政府は、1961年に制定された現行の農業基本法に代わる新たな基本法を制定するため、97年4月より、総理大臣の諮問機関として「食料・農業・農村基本問題調査会」(会長:木村尚三郎東京大学名誉教授)を発足させて、食料、農業、農村政策の改革に向けた検討を行なっている。本調査会では、12月に、食料、農業、農村政策に対する基本的な考え方を第一次答申としてまとめる予定である。そこで、農政問題委員会では、政府における検討に経済界の考え方を反映させるべく、「農業基本法の見直しに関する提言」をとりまとめた。以下はその概要である。

  1. わが国農業をとりまく内外の環境変化と新しい基本法の制定
    1. わが国農業をとりまく内外の環境変化
    2. わが国農業は、担い手の兼業化や高齢化、新規学卒就農者数の激減、農地の減少など、総じて見れば、生産基盤の脆弱化が進んでいる。また、農産物・加工食品の内外価格差が著しく拡大しているとともに、ガット・ウルグアイ・ラウンド農業合意が実施されるなど、農業分野においても着実に国際化が進展している。さらに、国・地方は多額の債務残高を抱えており、財政構造改革は待ったなしの段階にある。

    3. 新しい基本法の制定
      1. 現行農業基本法は、農工間の生産性格差と所得格差の是正を政策目標に据えている。現行基本法に基づくこれまでの農業政策に対する評価を検証すると、生産性格差では依然として農業は製造業の3割程度に止まっている。他方、所得格差ではむしろ農家が勤労者世帯を上回る水準になっているが、これはあくまで兼業収入の増大によって達成されたものである。

      2. 今回の検討にあたっては、現行農業基本法の功罪を洗い出すとともに、農業をとりまく環境変化を十分に認識する必要がある。また、理念法である基本法の改正にとどまらず、農政に係る関連諸法制の抜本改革につなげることが必要である。さらに、新しい基本法の制定にあたっては、ここ10〜20年程度の現実的な見通しに基づいた議論を行うことが重要である。

  2. 新しい基本法で期待される政策展開の基本的な考え方
    1. 食料政策の確立
    2. 消費者・実需者のニーズに合致した、良質・安全な食料を合理的な価格で安定的に供給できる条件を整備することは、国民的な課題であり、この条件整備こそ政府が担うべき基本的な役割と考える。
      食料自給率がカロリーベースで4割程度まで低下している現状を踏まえ、食料の安定供給を図るためには、国内生産の重要性に加え、輸入の役割も正当に評価し、生産・輸入・備蓄・加工・流通・販売までをトータルに捉えた食料政策を確立することが必要である。
      食料安全保障の観点から、平時においても国内自給の必要性を過度に論じる意見があるが、国民経済的見地から国民の負担コストを考慮しつつ、想定する食料危機に応じた対策が議論されるべきである。

    3. 国際化への対応
      1. グローバリゼーションの進展のなかで、農業問題も、単に国内の問題として捉えることはもはや不可能である。農業分野においても、グローバル・スタンダードを確立する努力が求められる。
        とりわけ、多角的自由貿易体制から最大の利益を享受しているわが国としては、WTOルールの維持強化のため最大限の努力を行う必要がある。なかでも関税化を留保しているコメについては、2001年以降の関税化は不可避であると考えられることから、そのための体制整備を急ぐ必要がある。

      2. また、今後、輸出も視野に入れた農業経営も試みていくべきである。さらに、国際協調の時代への移行を踏まえて、わが国の食料外交を積極的に推進していく必要がある。

    4. 農政の重点化・効率化
    5. 国内農業生産を総合的な食料政策の一環として位置づけるならば、農政の役割は食料政策上、必要不可欠なものに限定すべきである。従って、今後の農政の目標を、(1)農業の担い手を確保しうる「魅力ある職業としての農業の確立」と、(2)国際競争にも耐え得る「産業としての農業の確立」に重点化していくことが必要である。その前提として、現行の農家の定義を見直し、施策対象の重点化を図ることが求められる。
      具体的な政策展開にあたっては、規制緩和を徹底し、適地適作の下で営農者の自主性や創意工夫の発揮の余地を広げることを基本とした上で、国が担う基本的な農業政策は、転用規制の強化などの優良農地の確保、農地の集約化、圃場の大区画化などの基盤整備事業の重点的な推進、政策金融の充実、農業技術の開発や災害補償対策に重点化すべきである。

    6. 離島・中山間地対策
    7. 離島や中山間地などでは、産業としての農業の自立が難しいとして、農業が持つ食料供給以外の公益的機能(地域経済安定、国土・環境・景観保全等の機能)を強調し、財政的支援により、これら機能の発揮を農業に期待する議論がある。産業としての農業の確立が難しい、条件の非常に厳しい地域の農業については、産業政策としての農業振興策とは区別し、これらの地域の農業を保護する必要性や政策目的等を十分吟味した上で、その対策を別途検討すべきである。

  3. 農政に係る制度改革の具体的な方向
  4. 離島・中山間地対策としての財政負担型所得政策
  5. 省略・具体的な項目については下図参照

  6. 農業と企業との連携強化
    1. 現在でも、外食産業や大規模小売業を中心に農家との契約栽培等の取組みがおこなわれているが、農業経営の安定を図り、消費者に豊かな食生活を提供する観点から、引き続きこのような農業者と企業との連携強化を積極的に推進していくことが望まれる。技術・生産・加工・流通・販売までの過程をトータルに捉え、営農者、製造業、流通・販売業が互いに協力して付加価値を高めていくアグリ・ビジネスとしての展開が重要である。

    2. 食料品の内外価格差縮小のため、経済界としても、引き続き規制緩和や商慣行の是正等により、一層の流通・物流コストの削減や農業生産資材のコスト低減に向けて努力する必要がある。


【具体的な制度改革の内容】

                   ┌────────────────────────┐
                  ┏┥【優良農地の保全と構造政策の重点化】      │
         ┌───────┐┃│農地としてのゾーニング設定、農地法の抜本見直し、│
        ┏┥食料政策の確立│┃│基盤整備事業の低コスト化と国費の重点投入    │
        ┃└───────┘┃├────────────────────────┤
        ┃         ┣┥【多様な担い手の確保】             │
        ┃         ┃│農業生産法人制度の充実、株式会社経営を農業経営の│
        ┃         ┃│選択肢の一つに追加(その前提として農地転用規制の│
┌──────┐┃┌───────┐┃│強化、段階的な解禁)              │
│新しい基本法┝╋┥国際化への対応│┃├────────────────────────┤
│の下での政策│┃└───────┘┣┥【消費者負担型価格政策の見直し】        │
│展開の考え方│┃         ┃│行政価格の段階的引き下げ(時限的所得政策への転換)│
└──────┘┃         ┃│→5年程度後、価格支持制度の原則廃止      │
        ┃         ┃├────────────────────────┤
        ┃┌───────┐┣┥【農業技術に係る研究開発の強化】        │
        ┣┥農政の    ┝┫│技術集約型産業としての確立           │
        ┃│重点化・効率化│┃├────────────────────────┤
        ┃└───────┘┗┥【農協制度の見直し】              │
        ┃          │全国的な農協連合会に対する独禁法適用除外の妥当性│
        ┃          └────────────────────────┘
        ┃┌───────┐ ┌────────────────────────┐
        ┗┥離島・中山間地┝━┥【財政負担型所得政策の導入に係る検討】     │
         │     対策│ │財政給付を行う目的、地域等の限定、財源は農林水産│
         └───────┘ │予算全般の見直しにより捻出           │
                   └────────────────────────┘

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