経団連くりっぷ No.64 (1997年10月 9日)

シンポジウム「規制緩和で広がるビジネス・フロンティア」/9月26日

民間企業による規制緩和の一層の活用を


経済の活性化を図る上で、民間が規制緩和措置を積極的に活用し、新事業・新産業を興していくことが求められている。そこで、経団連と経済広報センターでは、共催で標記シンポジウムを開催し、行政改革委員会の宮崎委員長代理から、これまでの規制緩和の評価と今後の課題について、また経済関係各省から規制緩和の推進状況とその経済効果等について説明を聞いた。当日は、経団連・経済広報センターの会員企業・団体、報道関係者等650名が出席した。

  1. 豊田会長開会挨拶
  2. 規制緩和は財政に頼らない新しい経済政策として注目されている。規制緩和が新しいビジネスを創出し、企業による取り組みに応えてさらなる規制緩和が講じられるという好循環を維持していく必要がある。

  3. 基調講演
  4. 宮崎勇 行政改革委員会委員長代理

    1. 規制緩和の大きな狙いの1つは、民間が自由に活動できる環境を整備することである。行政改革委員会も94年12月の発足以来、毎年意見を総理に提出しており、今年も年末に意見を取りまとめる。

    2. 経済企画庁の試算によると、これまでの規制緩和による需要効果は、90〜95年度平均で7.3兆円(名目GDP比1.7%)に上っている。また、予定されている措置が着実に実施されれば、98年から2003年の間の実質成長率は年率0.9%上昇し、消費者物価は年率1.2%低下することが期待される。また中期的には雇用面の拡大効果も期待できる。

    3. これまで規制緩和は順調に進んでいるが、農業、流通、医療、教育分野をはじめ残された課題も少なくない。行政改革委員会は12月に任期を終えるが、規制緩和の推進は今後とも必要である。行政改革会議における中央省庁再編の議論の中で、行政改革委員会の後継組織についても検討されることを期待する。
      また、地方における規制緩和、税制や補助金等の問題も検討する必要がある。同時に、民間が、行政手続法やPL法、独禁法、情報公開法等に関し理解を深めるとともに、「民民規制」の自発的撤廃を含め企業倫理を遵守することが望まれる。

  5. 規制緩和の経済効果について
    1. 通産省 杉山 産業政策局審議官
      1. 政府は、規制緩和推進計画のほか、今年5月に閣議決定された「経済構造の変革と創造のための行動計画」に基づき規制緩和に取り組んでいる。
      2. 通産省の試算では、2001年までに物流、エネルギー、情報通信、金融、流通の5分野において抜本的な規制緩和の効果がすべて現れれば、95年実績比で実質GDPは6.0%上昇、設備投資額は延べ39兆円増加、消費者物価は3.4%低下する。
      3. 個別項目の効果としては、石油製品の輸入自由化によって、ガソリン価格は94年1月から97年8月までに平均20円/R低下しており、年間消費量を約5,000Sとすると、単純に計算すれば1年間当り約1兆円を消費者に還元していることになる。
      4. 電力については、発電部門 の参入自由化により、96年度の卸電力入札では、約305万Kw分が落札された。また、電気料金制度改革により、電力10社計で約6,120億円に上る料金引下げが実現した。
      5. 大店法についても、3次の緩和により、年間届出件数は85年度の507件から96年度には2,269件へと大幅に増えている。

    2. 大蔵省 太田 大臣官房審議官
      1. 大蔵省では、来年4月に施行される外為法改正をはじめとする金融システム改革を中心に規制緩和に取り組んでいる。
      2. まず、証券総合口座の導入、銀行での投資信託や保険の窓口販売等を実施の予定である。また、持株会社を金融分野において活用するための所要の措置を行なうほか、株式委託手数料の完全自由化に向け、98年4月には売買代金5,000万円超につき自由化の予定である。併せて、取引所集中義務の撤廃や、証券会社による未上場・未登録株の取扱解禁等により、利用しやすい市場の整備に努める。有価証券取引税を含め、金融関係税制についても検討する。
      3. 同時に、信頼できる公正・透明な取引の枠組み整備に向け、連結財務諸表制度の見直しや証券取引法のルールの拡充、金融機関の早期是正措置の導入等を予定している。
      4. この他、酒類販売免許の距離基準や人口基準の廃止についても検討の予定である。

    3. 郵政省 團 電気通信事業部長
      1. 経済企画庁によれば、電気通信分野の規制緩和により、90〜95年度に平均で約2兆円の需要効果と1.2兆円の利用者メリットがあったと試算されている。
      2. 参入規制の緩和により、事業者数は第一種・第二種を合わせて85年の85社から97年8月には5,205社まで増加した。また、電話料金は認可制から届出制への移行により低廉化が進み、現在では国内、国際とも85年の3割の水準となっている。
      3. 移動体通信については、端末売切制や一地域複数社体制の導入等と技術革新により市場が急成長し、97年度の設備投資額は1兆6,000億円に上る見込である。
      4. 専用線の利用では、国内、国際の公・専・公接続の完全自由化に伴い、2000年には、5,000億円の市場と2.1万人の雇用が創出されると推定される。

    4. 労働省 五十畑 官房政策調査部長
      1. 有料職業紹介事業については、取扱職業の範囲のネガティブリスト化により、取扱が可能な職業の範囲が雇用者ベースの推計で18%から60%に拡がった。労働者派遣事業の対象業務の範囲についても、ネガティブリスト化の方向で検討中である。
      2. 女性労働者の時間外・休日労働、深夜業の規制の解消や、裁量労働制の適用対象業務の拡大を実施したほか、労働契約期間の上限の延長等も検討中である。
      3. 規制緩和は、省力化と雇用の拡大に資する一方、失業者、離職者の増加にもつながるため、失業対策、雇用対策にも万全を期していきたい。

    5. 運輸省 辻 運輸政策局次長
      1. トラック事業では、参入・退出規制の緩和により、事業者数は95年には90年の16.4%増となっている。運賃・料金も届出制への変更に伴い低下傾向にある。また、サービスの多様化が進み、特に宅配便の輸送量は95年には83年の5倍に達した。
      2. 国内航空では、ダブル/トリプルトラック化基準の緩和・撤廃により、複数社運航を導入した路線では、便数、旅客数の伸びが全路線の伸びを大幅に上回った。また、幅運賃制の実施等により、旅客需要が増加し、96年6〜9月期の運賃収入は前年同期比5.4%増となっている。
      3. 車検については、前整備後検査の義務づけ廃止や定期点検項目の簡素化等により、大衆車クラスでは、車検整備の基本料金の低廉化が進んだ。また、ユーザー車検の件数も、96年7月〜97年6月期で前年同期比20%増となっている。
      4. タクシーについては、同一地域同一運賃原則の廃止やゾーン運賃制の導入等により、各地で多重運賃が実現している。

    6. 建設省 松野 住宅局市街地建築課長
      1. 建築基準法関連では、都心部における高層住宅供給の促進に向けて、高層住居誘導地区(容積率の引上げ、斜線制限の緩和、日影規制の適用除外等)の創設、敷地規模別総合設計制度(敷地規模が大きいほど容積率が高くなる容積率の割増制度)の創設等を実施している。
      2. これらの措置により、マンションの投資規模の拡大が期待されている。例えば、廊下や階段等の共用スペースを容積率から除外する措置により、算入する場合に比べて約1.2倍の床面積の共同住宅の建設が可能となることや、高層住宅誘導地区における高層住宅に対する容積率インセンティブ等により、今後10年間で大都市圏の都心部において中高層住宅の供給が約60万戸(トレンドに比べて、約10万戸増)となるこが期待される。

  6. 鈴木良男 規制緩和小委員会参与コメント
  7. 各省の取り組みも年々進み、規制緩和の進展が実感されるが、今後の課題も多い。

    〔通産省〕
    需給調整規制への取り組みが望まれる。電力や大店法については、活性化を図る方向で議論願いたい。

    〔大蔵省〕
    規制緩和の実現が最優先課題であり、銀行における保険窓販や、保険会社と金融他業態の相互参入等、措置の決まった事項は早急に実施すべきである。

    〔郵政省〕
    情報通信分野の活性化のためには、NTTにフリーハンドを与えるとともに、分割で誕生する地域会社が互いに競争する環境の整備が必要である。

    〔労働省〕
    有料職業紹介事業、労働者派遣事業については、対象範囲の実質的な拡大が重要である。また、審議会を隠れ蓑にせず取り組みを進めるべきである。

    〔運輸省〕
    タクシーの運賃については、国民に競争が見えるよう配慮されたい。

    〔建設省〕
    経済効果について明確な説明が求められる。

  8. 内田経団連事務総長 総括・閉会挨拶
  9. 企業による規制緩和の成果の活用を加速するには、一段の規制緩和が必要である。経団連では、現行の推進体制の終了後、2000年末までの規制緩和推進体制として、(1)新たな行動計画の策定と、(2)企画立案・監視機関として、法に基づく「規制緩和推進会議」の設置を要望している。


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