経団連くりっぷ No.65 (1997年10月23日)

常任理事会/9月30日

気候変動枠組条約第3回締約国会議に向けた交渉の現状について聞く


常任理事会では、外務省総合外交政策局国際社会協力部の野上武久参事官から、来たる12月に京都で開催される気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)に向けた交渉の現状について説明を聞いた。

  1. 全般的な見通し
  2. 京都会議が2カ月後に迫っているが、見通しは厳しい。10月22日から最終準備会合が予定されているが、いまだ主要論点について各国の立場が分かれている。議長国である日本としては、鍵を握る国々と個別交渉するなどして取りまとめにあたる必要があり、現在、準備を進めている。

  3. 温室効果ガスの数値目標
  4. 交渉の最重要事項である温室効果ガス排出量の数値目標については、日米両国の提案が決まっていないため、各国間の駆け引きは具体化していない。
    一方、数値目標を達成するためのスキームについては、ある程度議論が進んでいる。例えば、米国は、排出権取引、共同実施等の柔軟なスキームを数値目標とセットで決定する必要があるとしている。
    主要国・地域の立場については、まずEUは、交渉スタンスとしては前向きで野心的であり、2010年の排出量を1990年水準比15%削減することを提案している。ただ、EU内部は国によって数値がバラバラで、目標の差異化が必要な状況である。また、15%削減の算定根拠ならびにその必要性について十分な説明がない。さらに、数値目標を遵守する責任主体がEUなのか、各加盟国なのかも明確でない。
    米国は、途上国が義務を負うことが不可欠であると主張しており、さる7月には、上院において「途上国が義務を負わない合意は受入れられない」旨の決議がなされた。
    日本は、一貫して数値目標の国による差異化が必要であると主張している。石油危機以来、エネルギー効率の改善に努めた結果、1人当たりの年間排出量は2.6tと少なく(OECD平均3.5t)、GDP当たり排出量も非常に少ない。排出量削減に努めている国とそうせずに排出量が増加している国が同率の削減義務を負うのは不公平であり、過去の努力が数値に反映されるべきである。
    EUも域内では実際上差異化が必要な状況にあり、また、ノルウェー、豪州も差異化が重要であるとしている。特に、エネルギー集約型の生産・輸出構造を持つ豪州は、排出量削減が経済に大きな影響を与えることから、ハワード首相以下、相当な決意で差異化を主張している。
    いずれにしても、数値目標については、日米が提案を明らかにすることが交渉促進の鍵である。日本としては、詰めの作業を急いでおり、遠くない将来に発表する予定である。日本の提案は、一国の提案であると同時に、議長国として、交渉のベースとなるようなものにしたいと考えている。米国については、10月下旬の最終準備会合までには提案できることを期待している。

  5. 途上国の取り込み
  6. 数値目標と並んで重要な点は、途上国のコミットメントをいかに取りつけるかである。2010年には途上国の排出量が先進国のそれを上回る。ここで何らかの手を打たなければ、21世紀半ばには、温室効果ガスのほとんどが途上国から排出されることになる。したがって、先進国のみが互いに縛り合ってもグローバルな対策にはならない。途上国からも合理的な約束を取りつけたいというのが先進国共通の期待である。その際、問題はベルリン・マンデート(COP3までに2000年以降の温室効果ガス抑制対策に関する検討を終えることを定めた文書)が先進国の削減目標にしか言及しておらず、途上国に新たな義務は課さないとしていることである。このことが途上国の総じて消極的な姿勢に口実を与えている。
    途上国の中でも海抜が低く水没の危険がある島嶼国は、排出量を2005年までに1990年水準比20%削減するという最も野心的な提案をしている。他方、消極的なのは産油国で、先進国の温暖化対策の影響による原油輸出減少分の補償を要求している。これには先進国が一致して反対している。また、最近OECDに加盟したメキシコ、韓国については、先進国に準じた義務を負ってほしいというのが先進国の期待であるが、枠組条約の先進国リストに入っていないことから、両国とも消極的である。ASEAN諸国は、意識はある程度高いが、現時点で約束するのは時期尚早であり、先進国の提案を見た上で対応を考えたいとしている。人口の多い中国、インドは、21世紀には世界の排出量のかなりの部分を占めることになる。したがって、先進国としては、将来に何らかの約束を行なうという予約程度はしてほしいと働きかけているが、時間がかかりそうである。
    途上国は、排出量に関するデータの収集、報告には技術、資本が必要であり、何らかの義務を負うのであれば、先進国の支援がなければ対応できないとしている。この点に関しては、枠組条約に「条約の実施は先進国の技術・資本に依存する」旨が明記されており、世界環境基金も設立されているが、十分な支援が得られない、手続きに時間がかかる上に支援が受けられない場合もあるなどの不満を途上国は持っている。先進国としても、途上国の約束を引き出すには、より魅力的な支援策が必要であると認識しており、対応策を詰めている段階である。

  7. 国内対策
  8. 国際的な合意を見込んだ野心的な国内対策が必要である。その点、経団連が取りまとめた環境自主行動計画は心強いメッセージである。相対的に対策が進んでいる日本においても、90〜95年の5年間でCO2の排出量は8.3%増加している。これ以上何らの対策もとらない場合、2010年の排出量は1990年比20%増となる。したがって、ドラスティックな措置を講じなければ、1990年水準あるいはそれ以下に抑制することはできない。地球温暖化問題関係審議会合同会議がセクター毎の必要かつ可能な措置について検討しており、11月にその結果を取りまとめる。


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