経団連くりっぷ No.65 (1997年10月23日)

首都機能移転推進委員会新東京圏創造のためのワーキンググループ/9月25日

生活の視点からみた東京について
BBCヒンデル東京特派員より説明を聞く


新東京圏創造のためのワーキンググループ(座長:國信東京電力理事)では、第4回会合としてBBC(英国放送協会)のジュリエット・ヒンデル東京特派員を招き、生活の視点からみた東京について説明を聴取するとともに懇談した。

  1. ヒンデルBBC東京特派員発言要旨
  2. ヒンデル東京特派員

    1. 東京と世界の主要都市との比較
      1. G7諸国のなかで首都機能移転を計画しているのは日本だけである。私もかつてBBCの取材で、首都機能移転問題の国民の意識を東京の街角で聞いたが、関心がないとか金がかかり過ぎるとか言う人が多かった。

      2. ニューヨーク、パリ、ロンドンに住んだ経験から、東京は非常に住みやすい街だと思っている。
        ロンドンは、内陸都市だという地理的な理由もあるが、非常に空気が悪い。また、交通渋滞は東京の比ではない(パリも同様)。地下鉄のラッシュもすさまじい。その点、東京の地下鉄やバスなどの公共交通は非常に効率的にできている。私の親戚にロンドンの地下鉄のデザインに携わったエンジニアがいたが、もっと大きな地下鉄車両をつくるべきだったと思う。ロンドンの地下鉄は電車の中が狭く、天井も低いためラッシュの時には本当に窮屈である。

      3. 私は現在、都心に住んでおり、毎日自転車で通勤しているが、東京の道路は安全である。ロンドンでは怖くて自転車では通えない。総じて、東京のマス・トランスポーテーション・システムはロンドン、パリ、ニューヨークに比べて優れていると言える。

      4. 他方、東京の都市計画には問題があると思う。その結果、隣家が近すぎて騒音問題が起きる。最初に東京に来てアパートを探した時に、天井が低い部屋が多く悩んだが、なんとか庭付きアパートを探すことができた。しかし、騒音問題に悩まされている。例えば、私の住んでいる近くに公園があり、そこで夜中に若者が騒いでいることが多い。このような時に誰も注意しないのには驚いている。

    2. 東京の都市計画
      1. 東京には都市計画に関する法律はあるが、プラニングはないと思う。パリはフランス革命の後、都市作りを抜本的に考え直した。ロンドンは1900年頃から都市計画の内容が厳しくなり、例えば容積率が厳しくなり低いマンションのそばには高いマンションは建てられないようになった。
        ところが、東京では小さな家の周りに新たに高層マンションを建設することが許されている。これがロンドンだったら裁判になると思う。

      2. かつて、BBCの取材で京都の都市計画の担当者にインタビューしたが、京都の街はだんだん醜悪になっていると語っていた。例えば、清水寺からみると周囲の住宅はごみごみしているように見える。フィレンツェでも、住宅は京都同様ごみごみしているが、屋根は同じ色になっている。屋根の作り方の伝統を守ったからである。これは規制ではなく、人々の意識の結果だと思う。

      3. 外国人は日本の伝統的な建築にはあこがれるが、新しい建築にはあこがれない。
        首都機能移転をする際には、建築も考えてほしい。「ゆりかもめ」でお台場にいくと火星(他の世界)に来たような気分になる。新しい建物がたくさんあるが、よいと思う建物は少ない。

      4. 私は1987年から2年間、「JET(Japan Exchanging and Teaching)プログラム」の研修生として群馬の館林市に住んだ。英国へ帰り、昨年、久々に館林市を訪れたら景観はまったく変わっていた。館林市の郊外にきれいな湖があるが、このそばに黄色の大きなスーパーマーケットができていた。私は醜悪だと思ったが、住民に聞くと非常に残念という意見と便利になってよかったという両方の意見があった。英国では建物の色にも「美観」という観点からこだわっている。住民の意識が変わらない限り日本の都市の景観はよくならないと思う。

    3. 地震対策
    4. 東京都庁は最近地震に関するレポートをまとめた。そのなかでは、東京で阪神大震災規模の大地震が起こると7,000人程度の死亡者が発生すると予測しているが、過小評価だと思う。阪神大震災でも5千数百人が亡くなったのに、東京のような大都市なら都庁の予測以上の大惨事になるはずである。
      地震対策のために首都機能移転をするという話もあるが、日本ではどこでも地震が起こりうるので、地震対策のために首都機能を移転させる、という考えはおかしいだろう。

  3. 懇談概要
  4. 経団連側:
    地震に関しては日本全国どこでも起こるが、長年のデータや活断層の分布から、今後地震が比較的起こりにくいと考えられる地域がある。そこに首都機能を移転しようとしている。また、同時被災を避けるという意味合いもある。

    経団連側:
    湖のまわりの景観を守るならば、周辺地域を建設制限地域にするなどの方策があろう。英国の景観に関する考え方を教えてほしい。
    ヒンデル特派員:
    イギリスでは湖の周りにスーパーマーケットをつくるとしたら建物を隠すなどするだろう。そもそも、黄色の建物は認められないだろう。
    セントポール寺院の周囲は、再開発の際にチャールズ皇太子の景観を守るべきという発言が引き金となって議論がまきおこり、現在でもきれいな街が維持されている。
    日本の国会議事堂の周囲は、特にライトアップされた夜の姿が素晴らしいのに、背後に高いホテルが建っているのは残念だ。

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