経団連くりっぷ No.66 (1997年11月13日)

第10回日本ベネズエラ経済委員会合同会議(団長 亀高素吉氏)/10月23日

日本とベネズエラの経済交流拡大に向けて


日本側52名、ベネズエラ側25名の参加を得て、第10回日本ベネズエラ経済委員会合同会議が4年半ぶりに東京で開催された。同会議には、両国の経済界代表に加え、ベネズエラの経済改革に重要な役割を果たしているロハス・パーラ通産大臣、ペトコフ企画大臣も出席し、今後の経済交流の一層の拡大に向けた実り多い討議が行なわれた。

  1. ペトコフ企画大臣講演概要
    「ベネズエラの経済・産業政策」
  2. ベネズエラは以前、ポピュリスト的政策をとり国家が経済に強く関与してきたが、多くの国営企業は赤字を計上し、国庫の大きな負担となった。そこでカルデラ政権は市場の力を活用した生産能力の拡大に取り組んでいる。ネオ・リベラリズム政策により、市場に経済問題の解決を委ね、国家の経済に対するプレゼンスを少なくしている。これにより民間のイニシアチブが発揮され、活力ある経済をつくることが可能となった。
    カルデラ政権の経済計画(アジェンダ・ベネズエラ)は、短期的にはインフレ率を下げ、経済回復への道筋をつくることを目的とし、一方、中長期的には構造改革および法制度の改革を目指している。アジェンダ・ベネズエラが実施されてから1年半が経過したが、97年のインフレ率は35%前後と、96年の1/3の水準となる見込みである。98年にはさらに15〜20%を目標としているが、このため緊縮財政を継続していく。また97年上半期のGDP成長率は4%を記録した。新たに10万人分の雇用が創出され、失業率も低下している。また40億ドル分の起債を行なうことができたことは、ベネズエラが再び国際金融市場に組み入れられつつあることを示している。
    こうした経済政策と同時に社会問題にも配慮し、救済措置をとっている。経済の低迷により国民が貧困化し、中間階級が減少したことが社会の不安定化をもたらしたひとつの要因であった。救済措置により政治的な安定が実現したこともカルデラ政権の大きな成果である。

  3. ロハス・パーラ通産大臣講演概要
    「ベネズエラの通商政策」
  4. アジェンダ・ベネズエラはベネズエラの国際競争力の向上、マクロ経済の安定化、開放経済の維持、国営企業の民営化、民活を利用したインフラ整備等を主な内容としている。また経済成長に大きな役割を占める中小企業の育成も目指しており、今回の訪日にあたり日本に対し技術指導および管理者教育に関する協力をお願いした。
    貿易のグローバル化に向け、地域経済統合の進展に積極的に取り組んでいる。95年に発効したメキシコ、コロンビアとのG3通商協定は大きな成果を見せている。またアンデス・グループを通じてメルコスールとの自由貿易協定締結に向けた交渉を進めており、97年末には合意できる見込みである。さらに、米国との投資促進・保護協定、二重課税防止協定締結へ向けた交渉や、カリコム諸国やカナダとの自由貿易協定締結交渉も始まっており、中米諸国との交渉も98年に開始する予定である。98年4月にはサンチャゴに米州諸国の首脳が集まり、FTAA(米州自由貿易地域)創設に向けた交渉の開始が合意される予定となっている。
    通産省は勧業省にかわる新しい組織であり、輸出促進のため、企業家のミッションの派遣、受け入れ、輸出業者に対する支援、国際的な技術協力等を扱っている。また輸出促進のための金融支援を行なうため、97年10月に貿易銀行を設置した。
    また企業間の競争促進や消費者に対する教育を通じて、国内市場の近代化に努めている。価格統制も医薬品を除き撤廃した。
    投資促進策としては、諸外国との投資保護協定の締結を進めている他、税制面での優遇等、投資に対するインセンティブを与えている。この結果、アンデス・グループとメルコスールを合わせた3億人の市場を視野に入れて、海外の有力企業がベネズエラにオペレーションセンターを設置している。
    マクロ経済データも改善し、外貨準備も増加、財政的にも黒字を計上しており、今後はこれを維持していくことが重要である。金融システムも強化され、94年の金融危機の際とはまったく異なった状況となっている。また民主主義の定着により、政治的、社会的にも安定している。地域経済統合の進展により、ベネズエラは単に2,200万人の市場ではなくなっており、日本からも大きな投資のチャンスがある。

  5. 経済交流強化へ向けた活発な意見交換
  6. 4年半ぶりの開催となった今回の会議においてベネズエラ側は、財政収支の悪化や金融危機等の影響により低迷したベネズエラ経済が、カルデラ政権による経済の自由化、開放化、国営企業の民営化等を内容とする新経済政策「アジェンダ・ベネズエラ」の実施により着実に改善し、内外からの信頼が回復しつつあることを強調した。その上で、中南米の中でも特に豊富な埋蔵量を誇る石油をはじめとしたエネルギー資源、南米大陸の北端に位置し、米国、中米カリブ諸国にも近い地理的優位性、地域経済統合の積極的な推進等をベネズエラの魅力としてアピールし、エネルギーやインフラ整備の分野を中心とした日本からの投資および両国の貿易の一層の拡大を呼びかけた。
    一方日本側は、各企業の実際の投資、事業計画の経験に基づき、今後の対ベネズエラ・ビジネスの拡大のために、
    1. 電力、輸送等のインフラの整備、
    2. 一貫性のある安定的な経済政策の実現、
    3. 治安問題の改善等、
    が必要であると指摘した。また両国の貿易拡大に向け、ベネズエラ側に日本市場の研究および日本市場にあった製品開発を求めるとともに、日本側としてもベネズエラ製品の輸出拡大のための技術協力や助言を、必要に応じ今後とも行なっていくことを表明した。


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