経団連くりっぷ No.66 (1997年11月13日)
在中南米諸国大使との昼食懇談会(座長 高垣 佑氏)/10月30日
変化に対応した新たな中南米戦略を
10月28日〜30日に開催された97年度在中南米諸国大使会議に出席のため帰国中の大使ならびに田中外務省中南米局長を招き、主要国の政治・経済の現状と展望および今後の対中南米外交方針について説明を聞くとともに懇談した。局長ならびに各大使は、地域統合の進展等がもたらす中南米地域の変化に対応し、わが国としても新たな外交戦略を検討すべきことを強調した。
- 田中中南米局長説明要旨
今回の大使会議では、FTAA(米州自由貿易地域)等、中南米の地域統合の動向が大きな関心事項であった。わが国としても、WTO(世界貿易機関)との整合性を求めていくだけではなく、EU(欧州連合)が行なったような枠組み協定の締結等の可能性を含め、対応策を検討していく必要があろう。
今後のわが国の対中南米外交は、
- 経済開発、民主主義の定着の促進、
- 麻薬、人口、環境等のグローバル・イシューの解決への支援、
- 地域統合の進展への対応、
- 資源・食糧供給問題の観点からの中南米の位置づけ、
- 日系人の地位向上等、
を柱として進めていく方針である。
- 寺田駐メキシコ大使説明要旨
本年7月の選挙で与党の制度的革命党が下院の過半数を失った。しかしメキシコはNAFTA(北米自由貿易協定)に強く組み込まれており、急激な左傾化はあり得ない。
2001年のマキラドーラ制度廃止問題については、メキシコ政府も善処する姿勢を明らかにしている。日系進出企業は、将来、第3国から輸入する必要のある部品につき、具体的かつ早急に、関税上の配慮をメキシコ政府に要望すべきである。
- 阿曽村駐ベネズエラ大使説明要旨
本年のクリントン米大統領の来訪時に、ベネズエラはFTAAの推進役を果たすことを約束した。経済面では96年4月からIMF(国際通貨基金)勧告を全面的に受け入れネオ・リベラリズム政策に転向したところに、石油価格の上昇という幸運もあって好転しており、国際的信用も回復している。
- 浅見駐コロンビア大使説明要旨
サンペール大統領の麻薬資金疑惑の影響とそれに伴う対米関係の悪化に、地方選挙や来年の大統領選挙の中止を狙ったゲリラ攻撃の激化等の要因が重なり、97年第2四半期は10年ぶりのマイナス成長となった。最近になって、米国の対コロンビア政策に改善の兆しが見られることから、第3四半期は経済もやや持ち直すのではないかと思う。
- 小西駐ペルー大使説明要旨
IMFの構造調整を成し遂げたフジモリ大統領に対する内外の評価は高い。とはいえ依然として深刻な貧困、失業問題に直面する大統領にとって、日本からの経済援助は大きな意味を持つ。
民営化の実現に伴い積極的に進出している欧米に比べ、日本の対ペルー投資は遅れを取っている。金・銅、農業・漁業などの分野で、貿易・投資拡大の可能性があると考える。
- 塚田駐ブラジル大使説明要旨
カルドーゾ大統領はレアル・プランの成功によりインフレを1桁台まで引下げ、自身の再選を可能にする憲法改正も成し遂げた。しかし他の改革は遅れ気味であり、2期めに期待している。また、土地なし農民運動等が重大な社会問題に発展する可能性もなしとしない。
- 荒船駐アルゼンチン大使説明要旨
10月26日の下院選で与党が過半数を失ったが、今後とも経済改革路線に変化はない。民営化はほぼ終了し、経済の自由化は日本よりも進んでおり、経済状況は中南米の手本とIMFに評価されている。
日本からは距離が遠いこともあり経済関係は遅れているが、外交上の立場の一致、エネルギー・食糧供給上の可能性等をベースに強化を図りたい。
- 中村駐チリ大使説明要旨
本年の経済成長率はかなり良好(6.5〜7%)と予測されている。現在、税制改革の一環として、鉱業投資収益への課税が提案されており、わが国としても政府レベルで見直しを申し入れていくことを検討しているが、経済界の意見を聞きたい。
チリは米国政府のファスト・トラックとの絡みで先行き不透明なFTAAに代わり、アジア地域との関係強化に対する期待を強めている。
- 田中駐キューバ大使説明要旨
カストロ首相は依然として健在であり、キューバの社会主義体制はしばらく続くと見られる。ソ連崩壊に伴う大不況は最悪の状況を脱し、近年は観光が有力な外貨獲得源となっている。対米関係に改善の兆しはなく、むしろカリブ諸国との関係を重視している。
- 藤崎駐米公使説明要旨
クリントン政権の中南米に対する関心は、
- 経済権益の確保、
- 麻薬、テロ等の脅威への対処、
- 縄張りの維持、
の3点に絞られる。
FTAAに関するファスト・トラックの承認については、世論でも議会でも反対が賛成を上回っているなど、容易ではない。
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