経団連くりっぷ No.66 (1997年11月13日)

地方振興部会(部会長 金谷邦男氏)/10月14日

街の顔─中心市街地の再活性化に向けて


都市がその魅力を競いあう大競争時代において、日本の都市は、税や規制による高コスト構造や、高齢化に伴う問題、小売市場の変化やモータリゼーションの進展等に十分対応できていない。政府、自民党では「中心市街地の再活性化」に取り組み、来年度予算における中心施策のひとつとする予定である。地方振興部会では、再活性化に取り組んでいる関係11省庁のうち幹事省である建設省、通産省、自治省の幹部を招き、懇談した。

  1. 中心市街地の活性化と各省の役割(各省説明)
    1. 街なか再生事業を中心に
      <建設省都市局都市政策課 松井建設専門官>
    2. 日本が、急激な人口集中の起こった「都市化社会」から、成熟化し高齢化の進む「都市型社会」へと転換を遂げる中で、都市政策の役割は「ニュータウンの建設」などから「都市の再構築」へと変わってきた。中心市街地活性化はこの都市再構築の核となるものであり、そのコンセプトは、商業だけでなく、業務、住宅その他の都市機能と公益施設等を再配置・集積させるとともに、これらを支える道路、駐車場等を整備することによって、「生活空間としての市街地」として「街なか再生」を実現することにある。基本的な視点としては、
      1. 地域からの発意と主体性の尊重、
      2. 施策の総合的・一体的な実施、
      3. 国の支援策における多様性と選択性の確保、
      があげられる。
      建設省は、
      1. 道路、駐車場等の基盤整備、区画整理等の面的整備事業、住宅をはじめとする建築物整備に対する補助および税制措置の充実、
      2. 中心市街地の周辺のネットワーク整備の実施、
      3. 地権者法人や地方レベルの公社、公団等、まちづくり主体の制度的枠組みの整備、
      を行なう。建設省の中心的施策である「街なか再生事業」は、区画整理事業のミニチュア版である。既存の商店街の再生のために、従来のような道路の拡幅による対処では、歯抜けになっている空き店舗問題を解消できないことから、区画整理を柔軟に活用できることとした。これにより、
      1. 商業者が公的な移転補償費で商店等を建て替え、商店街の集約再編を進めること、
      2. 商店以外の地権者は、借地経営または土地の売却により、土地の有効利用を行なうこと、
      3. 空地等を集約して、にぎわい施設や公益施設を立地できる大規模敷地を創出すること、
      が可能となる。

    3. 面的広がりを持った施策の展開
      <通産省産業政策局 細野流通産業課長>
    4. 中心市街地の空洞化は、県都あるいは県都の次の規模のレベルの都市を中心に進行しており、居住人口のみならず公共施設を含む諸施設が郊外に流出している。これではスプロール化や社会資本の二重投資という問題が生じかねない。中心市街地を再活性化し、効率的で住みやすい街づくりを進める必要がある。しかし、さびれているところをすべて支えるのでは経済原則に反することになる。財政構造改革の理念からも施策の対象を重点化する必要がある。新規事業のニーズやシーズ等が生まれてくる各地域の核となる施設(大型商業施設、コミュニティ施設、都市型工業等)や中心となるコンセプト(環境にやさしい、高齢者にやさしい等)を集中的に支援したい。
      中心市街地の再活性化をテーマに据えることにより、これまでの個店対策が線的対策ではない、面的広がりを持った施策を展開する発想が生まれた。ゾーン全体の活性化が図られるような施設整備、望ましい事業者の誘導、空き店舗、空き地の有効活用を図る必要があり、そのための計画策定、コンセンサスづくりを支援するタウンマネージメント機関を創設する。

    5. 地域の自主的計画的な取り組みを支援
      <自治省行政局 小室振興課長>
    6. 自治省では、
      1. 中心市街地活性化施策の総合的・計画的推進の支援、
      2. 中心市街地再活性化に資する人材育成等の支援、
      3. 中心市街地再活性化のための施設整備の支援、
      4. 特定商業集積法に基づく施策など関係省庁と連携した施策の推進、
      に取り組んでいる。特定商業集積法による施策については、建設省、通産省と協力しつつ、従来から
      1. ポケットパークの整備などの商店街振興整備特別事業、
      2. 電線の地中化など都市生活環境整備特別対策事業、
      3. 生活道路、小公園等を整備する街並み整備事業、
      4. ふるさとづくり事業、
      5. 広域行政圏を単位とした事業、
      に取り組んでおり、今後とも工夫を加え、地域にとって重要な事業を重点的に取り上げていきたい。

  2. 懇談
  3. 経団連側:
    中心市街地の活性化施策は評価できるが、一刻も早く実施してほしい。概して施策の発表から実施までの間は、かえって民間が事業を行なうことへの抑制効果が働く。半年たってからの実施では、現在の有事に対応できないのではないか。
    建設省:
    できるだけ早く実施することが必要だが、基盤整備には、地権者との調整など一定の時間が必要なのも事実である。
    自治省:
    現在は仕組みを作る段階だが、できてからは地域の自主性を尊重したい。
    通産省:
    ワンストップショッピングさながらに、制度を利用する自治体が一つの窓口で手続きが済むような仕組みをつくりたい。

    経団連側:
    開発前後の税収の差を利用した租税増収財源債のような工夫は考えられるのか。
    建設省:
    概念的には存在するだろうが、中心市街地の活性化の場合には、一体的な開発プロジェクトの場合と異なり開発前後の税収の差の測定が難しいことなどから、現段階で債券化は難しいのではないか。

    経団連側:
    大型店は(1)郊外部への人口流出、(2)利用可能な土地の小ささ、とりわけ駐車場用地の確保の困難さなどから中心部に立地できない。
    また、商店街の店舗は(1)営業時間の延長どころか日曜日に休業してしまう、(2)後継者がいない、といった問題を解決しない限り活力が出てこないのではないか。
    建設省:
    これらの問題の解決は結局、地道な調整作業になる。現状の改善ではなく、生まれ変わるために市町村がアイデアを出したときに使いやすい仕組みを作りたい。
    自治省:
    各省連携して対応していく。ご指摘の点は(事情で途中退席した)通産省にも伝えておく。


くりっぷ No.66 目次日本語のホームページ