経団連くりっぷ No.67 (1997年11月27日)

通信・放送政策部会(部会長 葉山 薫氏)/11月5日

技術革新に対応した通信・放送融合時代の制度作りが急務


情報通信委員会通信・放送政策部会(部会長:葉山薫 東京三菱銀行副頭取)では、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所の菅谷実教授より、通信・放送の融合に向けた制度的枠組みのあり方等につき話を聴くとともに種々懇談した。菅谷教授は「米国では、通信、無線通信、地上放送、CATV、衛星が自由にマルチメディアサービスを提供できるようにし、競争を通じて最も効率的なネットワーク構成の実現を図っている」と指摘した。なお、「情報通信市場における自由かつ公正な競争の実現方策」について検討するため、小人数のワーキング・グループを設けることが決定された。

  1. 通信・放送の規制
    1. 放送は通信の特殊な形態であり、両者は技術的には共通性が高い。しかし、通信は規模の経済や自然独占性に、一方、放送は電波の稀少性や社会的影響力に配慮した、それぞれ独自の法体系が作られてきた。

    2. 放送のデジタル化、チャンネル数の大幅増大を背景に電波の稀少性が放送関連規制の根拠にはなりにくくなっている。また、放送の社会的影響力についても、情報の伝達力が強いのは限られた放送局にすぎない。

  2. 日米の規制体系の違い
    1. 日米ともに、放送とは「不特定多数によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信」とされているが、その範囲については大きく異なる。米国では「不特定性」を厳密に解釈し、送信者が受信者を特定できる有料サービスについては、CATVも含め、すべて放送とはならない。

    2. これに対し、日本では「有線テレビジョン放送法」や「有料放送」という概念があるなど「放送」の概念をかなり広く解釈している。その背景には、放送が言論報道サービスという社会的機能を持つことへの配慮がある。

  3. 融合の形態
    1. 通信と放送の融合は、
      1. 所有の融合(通信、放送の相互参入)、
      2. ネットワークの融合(通信ネットワークでの放送類似サービス、放送ネットワークでの通信類似サービス等)、
      3. サービスの融合(通信、放送、CATVを統合したこれまでの通信、放送の概念を超えるサービスの登場)、
      に分けられる。

    2. これまでの「通信とコンピュータとの融合」、「通信と放送との融合」を経て、今や「放送とコンピュータとの融合」が議論されており、ネットワークは次々と新たな展開を遂げている。

  4. 5車線のネットワーク競争
  5. 米国のゴア副大統領が92年に提唱した情報スーパーハイウェイは、通信、無線通信、地上放送、CATV、衛星という5つの異なるメディアのネットワークから構成されている(図2参照)。技術革新により、それぞれのネットワークにおいて、融合型サービス、マルチメディアサービスが提供できるようになる。米国では、この5つの車線の中で融合型サービス、マルチメディアサービスを自由に提供させることにより、競争を通じて、最も効率的なネットワークを実現させようとしている。

  6. 情報内容規制について
  7. 通信・放送融合に対応した制度的枠組みを考える際、「表現の自由」と「情報内容規制」の問題を避けることはできない。プライバシーやポルノ情報の取り扱いを含め、情報の流れの秩序作りをしないと、社会が混乱するおそれがある。情報内容規制は、政府が行なう方式に限らず、自主規制、業界規制、第3者機関による規制、独立規制委員会型等、多様な手法がある。表現の自由という視点から考えると、産業界レベルでの自主的な動きを通じて、新しいマルチメディアの秩序が形成されるのが望ましい。

図1・図2
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