経団連くりっぷ No.68 (1997年12月11日)

OECD諮問委員会 /11月18日

金融部門への影響大きい欧州通貨統合
−BIAC経済政策委員会の活動について


BIAC経済政策委員会は、毎年1回、OECD経済政策委員会との間で、加盟国の短期経済見通しや、その時々の重要な経済問題をめぐり協議を行なっている。同委員会の副委員長を務める東京三菱銀行の田中一光常任参与より、11月4日〜6日に開催された本年の協議の模様につき報告を聞いた。本年は、アジアの通貨情勢が日本経済に及ぼす影響や、米国経済の健全性、欧州通貨統合の影響等が主なテーマとなった。

  1. アジア通貨危機と日本経済
  2. 参加各国は、韓国の経済情勢が日本経済に大きな影響を及ぼすと見て、注目している。日本経済は、97年度に入り内需の弱さにより停滞している。加えてアジアの通貨危機に端を発する株価の下落が、バブル経済の後遺症である金融機関の不良債権問題を改めて表面化させた。これまで資本供給国として世界経済の潤滑油の役割を果たしてきた日本の経済が危機に陥ることを、欧米諸国は懸念している。

  3. 米国経済は不思議なほど健全
  4. OECD経済政策委員長を務めるイエレン米国大統領経済諮問委員長は、米国経済は完全雇用の状態にもかかわらず、賃金上昇圧力もインフレ圧力もなく、不思議なほど健全であると述べた。連邦中央銀行が従来通り前倒しの政策展開を続行すれば、引き続き安定成長、または若干減速し、ソフト・ランディングに向かうとみられている。
    米国経済の奇跡の要因のひとつとして、IT(information technology)に対する投資効果が、旧来の統計手法では正確に捕捉されていないことがあるのではないかと言われ、統計の見直しに関心が集まっている。

  5. 欧州通貨統合がもたらすもの
  6. 欧州諸国の経済状況はまずまずの強さで、通貨統合に向け粛々と経済政策を進めている。ただし、引き続き失業問題には解決の兆しが見えず、労働市場の構造改革が最大の課題である。
    通貨統合のメリットとしては、為替リスク・コストの削減、インフレの抑制、財政赤字削減の進展、長期的な投資効率の改善などが考えられる。他方、各国が金融・為替政策上の裁量権を持たなくなるため、労働・生産市場の調整機能が失われ、失業等に悪影響が及ぶことも考えられる。
    通貨統合の影響は、金融部門で最も顕著である。短期的には域内の為替取引が減少する。長期的には、金融機関は各国内における優位性を失い、より激しい市場競争に直面して、ダウン・サイジング、統合の動きが進む。また、個々の企業レベルでのシステム面での対応や、政府による税制、会計原則等に関する対応を急ぐ必要がある。


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