経団連くりっぷ No.68 (1997年12月11日)

OECD諮問委員会(委員長 行天豊雄氏)/11月27日

アジアの金融・通貨情勢をめぐる諸問題


OECD諮問委員会を開催し、行天委員長より最近のアジア、日本の金融・通貨情勢の背景と今後の見通し等につき講演するとともに、事務局より11月にパリで開催されたBIAC戦略予算会議の模様を報告した。行天委員長は講演のなかで、今回の経済危機は高度成長期に隠れていたさまざまな病巣が表面化して起こったものであり、解決は容易ではないが、これを機に各国が真剣な対応に着手していることを前向きに捉えるべきであると述べた。

  1. アジア経済の隠れた病巣
  2. 東アジアは70年代末から「アジアの奇跡」と呼ばれる高度成長を遂げたが、その背後に自覚症状のないさまざまな病巣が存在した。病巣は国によって異なるが、ほぼ共通するのは以下の点である。

    1. 金融システムの脆弱性:
      資金の流れを国の指導者が決定したため、金融機関の健全性、審査能力、透明性が軽視された。

    2. 権力中枢との癒着:
      権力中枢と経済との間に癒着関係が存在し、経済原則、市場原理に反する形で経済運営が行なわれた。

    3. 過剰投資:
      国民全体の発展への強い意欲に支えられた大規模なインフラ投資が過剰投資につながり、外資への依存を強めた。

    4. 対外債務の増加:
      欧米からの圧力を受け、オフショア市場の設置による金融市場の自由化を進めた結果、大量の外資が国内に流入し、結果的に巨額の外貨建て債務となった。

    5. 為替相場制度の失敗:
      タイ通貨バーツは実質的に米ドルにリンクしているため、94年の中国人民元の切り下げ、95年の円ドル相場の反転以降、輸出競争力が悪化した。
      こうした問題の蓄積が、政情不安の影響もあり、通貨危機として表面化した。為替相場はいずれ安定点を見出すと思われるが、通貨危機が招いた経済への不信感や金融システムの脆弱性などは解決に時間を要する。

  3. 日本の金融システム危機の懸念
  4. 最近の日本の金融危機には、ふたつの側面があり、それぞれ性格が異なる。

    1. 金融機関の一斉破綻:
      バブル崩壊後の不良債権について、金融機関の経営者と監督当局の双方が解決を怠ったことが原因である。市場の行き過ぎで金融システム自体が破綻しないよう、当局は早期に危機回避措置をとるべきである。

    2. 金融不祥事:
      総会屋への利益供与や、「飛ばし」などの不正取引の問題は、日本企業のコーポレート・ガバナンスに関わる問題である。これを抜本的に見直さなければ、スキャンダルは根絶されない。経団連の役割が求められる分野である。
      現在のアジア、日本が抱える問題の解決は容易ではないが、各国で真剣な対応が始まっていることは評価できる。今回の危機を教訓として、今後、円ドル相場の安定、日本の景気の安定的拡大、日本とアジア諸国の協力関係の強化が望まれる。


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