経団連くりっぷ No.69 (1997年12月25日)

第1回 東海地方政策懇談会/12月3日

21世紀の都市圏形成のあり方
−東海経済界と懇談


経団連では、「官」から「民」へという流れの中で、民間の政策提言力の一層の充実、政策推進活動の強化を目的に、本年度から新たに各地経済団体との間で政策懇談会を設けることとし、その第1回目として、東海地方において「魅力ある日本の創造を目指して─世界に開かれた国土づくりと中部」を基本テーマに、今後の国土づくりのあり方などについて種々懇談を行なった。当日は、安部中部経済連合会会長、谷口東海商工会議所連合会会長をはじめ地元経済人270名が、経団連からは、古川副会長、前田評議員会副議長が出席した。

  1. 開会挨拶
    安部中部経済連合会会長(中部電力会長)
  2. 中部地域の経済情勢は、消費税率の引き上げや所得税減税の打ち切り等により消費の低迷が長期化しており、いまだ足踏み状態が続いている。加えて、金融機関の経営破綻が相次ぎ、景気の先行きに対する不安が加速されている。このような状況を打開するために、政府においては、経済構造改革をはじめとする諸改革に果断に取り組むことが強く求められる。
    中部地域では、中部新国際空港建設、2005年日本国際博覧会開催、中部への首都機能移転の3大プロジェクトに取り組んでいる。これらのプロジェクトは、当地域のみならず本日のテーマでもある魅力ある日本を創造するためにも不可欠なものである。プロジェクトの推進に向け、経団連をはじめ皆様方には、一層のご協力とご支援をお願いしたい。

  3. 基調講演
    1. 世界に開かれた国土づくり
      古川経団連副会長/国土・住宅政策委員長
    2. 世界中の国と国、地域と地域がその魅力を競い合う大競争時代を迎えている中で、国際競争力を持つ地域づくりを進めるには、
      1. 物流、情報通信インフラをはじめとするハード面の整備とその有効活用、
      2. 地域社会の企業、大学、NPO、さらには周辺地域との「連携」の推進、
      が重要となろう。地域と関係者との「連携」は、内外の企業が自由な環境の下で新しい創造的な事業を生み出し、また、透明で効率的な地方行政を推進する上でも、不可欠な課題である。
      中部新国際空港の建設、2005年日本国際博覧会の開催に向けた、中部地域における新しい都市づくりへの試みは、今後、地域社会が「連携」を深めていく上での貴重なモデルとして、全国から注目を集めることとなろう。ぜひ、夢のある都市づくりに取り組んでいただきたい。

    3. 2010年に向けた地域づくり
      小川名古屋商工会議所副会頭(東邦ガス会長)
    4. 現在、国内産業の空洞化が顕在化し、わが国の産業構造は大きな転換期を迎えている。新たな時代に向けて、行財政改革をはじめとする諸改革の断行とともに、21世紀に対応する国土計画の策定が急がれる。
      次期国土計画の策定にあたっては、
      1. 従来の第一国土軸の西日本国土軸としての再生ならびにこれまでの集積の活用、
      2. 世界的な交流をも視野に入れた「広域国際交流圏」の形成、
      3. 首都機能移転の推進、
      4. 財政構造改革と両立した国土基盤の整備、
      等が重要な課題となろう。
      当地域では、「新産業・新技術の創造圏域」、「世界的な経済交流圏域」、「未来志向の環境共生圏域」の形成ならびに東海圏新首都の誕生を、21世紀に目指す方向と位置づけ、その実現に積極的に取り組んでいきたい。

  4. パネルディスカッション
    「21世紀の都市圏形成のあり方」
    1. 奥野信宏名古屋大学経済学部長
    2. これまで、首都圏を第1位とする都市間の序列を維持した政策の下で、いびつな競争が行なわれてきた。結果として、多様な経済圏がつくられず、わが国の活力の維持が困難になっている。こうした状況を打破し、地域間の横一線の競争を可能にすることが重要であり、首都機能移転、地方分権などはそのための有用な手段となろう。
      戦後、わが国の発展をリードしてきたのは製造業であり、当地域は常にその一翼を担ってきた。他方、国は製造業の発展に対する環境整備に冷たく、空港、港湾整備などはアジアに遅れをとっている。わが国の製造業の今後の発展にリーダーシップを発揮することができる当地域に対しては、製造業の生産性の向上に寄与する社会資本整備が重点的に行なわれる必要があろう。

    3. 須田中部経済連合会副会長(東海旅客鉄道会長)
    4. 今後の都市圏づくりにあたっては、長期的戦略の下にハード・ソフトの両面から新しい都市のあり方を考るべきである。当地域は、
      1. 新空港建設による国際的情報都市づくり、
      2. 万博開催に向けた未来志向の環境共生都市づくり、
      3. 首都機能移転による新しい地域づくり、
      に取り組んでおり、過密のない適度な集積をもった戦略的拠点づくりを目指している。
      今後の中部圏の整備の基本的な方向としては、
      1. 国土軸ロータリーの構築、
      2. 北陸と一体となった国際交流圏域の形成、
      3. 研究学園都市機能の強化ならびに連携、
      4. 国際ビジネスゾーンの形成、
      等があげられる。民間の力も活用しながら地域主導型のプロジェクトを推進すべきであろう。

    5. 前田経団連評議員会副議長/国土・住宅政策委員会委員長代行
    6. 均衡ある国土の発展を目指して、わが国の社会資本整備は進められてきたものの、現実には体力の弱いインフラとなっており、道路一本とっても、外国とは比較にならないほど脆弱である。今後は、国、地域等が何を求めているのかをきちんと議論するとともに、採算性を重視した、社会資本整備の新しい仕組みづくりを進めていく必要があろう。その仕組みの下で、民間がどのような役割を担っていけるのか検討することが重要である。民活は打ち出の小槌ではなく、PFI(Private Finance Initiative)等についても冷静な検討が必要である。また、新しい都市圏形成にあたっては、環境との共生、環境への負荷の少ない都市づくりが求められるのではないか。
      中部地域には、空港、万博などのプロジェクトがあり、全国的にみても明るい地域である。当地域におけるこのような取組みは、今後のわが国の地域づくりの貴重なモデルとなろう。


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