経団連くりっぷ No.69 (1997年12月25日)

アジア・大洋州地域委員会(委員長 末松副会長)/12月8日

ABAC(APECビジネス諮問委員会)報告会を開催


ABAC(APECビジネス諮問委員会)では、11月のAPECバンクーバー会議に向けて報告書の取りまとめを行なっていたが、10月に、報告書を本年のAPEC議長であるクレンティエン・カナダ首相に提出した。そこで、アジア・大洋州地域委員会では、ABAC日本代表の室伏稔伊藤忠商事会長兼社長、立石信雄オムロン会長、中川健三昭和プラスチックス会長兼社長から報告書の概要と、首脳や閣僚との対話などバンクーバーでの模様について聞いた。

  1. ABAC報告書の概要
    1. 総括(室伏伊藤忠商事会長兼社長)
    2. 今年の活動方針は、
      1. 昨年のマニラ会議で採択されたマニラ行動計画(MAPA)の評価、
      2. 96年提言の具体化、
      3. 新しい提言、
      の3つであった。国境円滑化、投資・金融・インフラ、経済技術協力の3つの分科会のほかに、中小企業特別委員会、MAPAの評価をするタスクフォースが設置され、報告書の作成にあたってきたが、今年の提言は昨年よりも具体的な内容になった。また、1年間の活動の中で、ABACメンバーがAPEC貿易大臣会合や大蔵大臣会合に出席し意見を発表する機会を得るなど、APECプロセスへの民間関与が深まったことは、大きな成果である。

    3. 投資・金融・インフラ(室伏伊藤忠商事会長兼社長)
    4. この分科会では、域内の金融市場の育成、効率的な資本へのアクセス、ならびに民活インフラの促進に重点を置いた。昨年は、APEC自主投資プロジェクト(AVIP)スキームを提言したが、今年はそれをベースに、インフラに対する投資自由化をセクター別に行なうことを提言した。そして、そこに適用されるべき投資保護の原則「インフラ投資イニシアチブ」を発表した。
      また、中小企業の資金調達円卓会議の開催を提案するとともに、途上国・地域にとっての効率的な資本市場の育成に必要な要素を明らかにした。

    5. 国境円滑化(立石オムロン会長)
    6. ビジネス関係者の移動の円滑化を図るために、APECメンバー国・地域に対してビザ免除、APECビジネストラベルカード、5年間有効な数次入国ビザの3つのオプションのうち1つを1998年までに採用するよう求めた。知的所有権については、エンフォースメントを強化すること、教育と啓蒙活動に取り組むこと、その過程で民間の参加や官民合同の教育プログラムが必要であることを提言した。この他にも、基準認証、専門職の標準化、ボゴール宣言の完全実施(特にサービス分野に関して)、政府調達、競争政策と規制緩和について提言した。
      さらに、ボゴール宣言の2010年、2020年の目標よりも前倒しして自主的に自由化に取り組むセクターとして、ケミカル、環境機器・サービス、食品、オイルシード、医薬品、パルプ・木材製品、玩具、輸送・自動車関連製品の8分野を提案した。
      これらの分野の選択には、種々討議が繰り返され、特に自動車に関しては、先進国と途上国との間で激しい討議が行なわれた。ちなみにAPECバンクーバー会議で決定した優先分野は以下の9分野である。環境関連の製品・サービス、水産物・水産加工品、林産物、医療機器・医療用具、電気通信端末機器認証手続の相互承認取り決め、エネルギー、玩具、貴金属・宝石、化学品。

    7. 経済技術協力(中川昭和プラスチックス会長兼社長)
    8. 主に2つのことを提言した。1つは、民間部門の経済技術協力活動への参加を取りまとめるような非営利の仲介組織「公正な成長のためのパートナーシップ(PEG)」の創設を推進することである。第2の提案は、情報技術分野での教育および研修の促進を目的としたAPEC情報技術教育イニシアチブを推めることである。これは、昨年締結された情報技術協定(ITA)の成果をすべてのAPECメンバー国・地域が生かすために必要な人材養成を目的としている。

    9. 中小企業(中川昭和プラスチックス会長兼社長)
    10. 域内の貿易環境およびビジネス機会などに関する最新の情報にアクセスすることは、中小企業にとって競争力と成長の点から重要である。そのためABACでは、APEC中小企業統合ネットワークの利用の円滑化と強化を提案した。APEC中小企業技術交流・人材養成センター(ACTESME、於 シンガポール)と日本が変更を加えたG7グローバル情報ネットワーク(GIN)などのネットワークがすでに構築されており、今後これらへのリンケージが増加することが望まれる。

    11. APECマニラ行動計画(MAPA)レビュー(立石オムロン会長)
    12. 昨年のマニラ会議での首脳からの要請によりレビューを実施したが、MAPAは膨大なものであるため、ビジネスの観点から重要分野を5つ(関税、非関税障壁、サービス、投資、経済・技術協力)に絞り、それぞれにつき評価、提言した。全体的な評価としては、主に以下の4つである。
      1. 自由化プロセスへの付加価値の必要性
      2. 透明性の欠如
      3. 具体性の欠如
      4. 具体的な行動計画に関する記述の必要性

  2. バンクーバーでの模様
  3. 首脳、閣僚とABACメンバーとの対話が各1時間ずつあったが、各国・地域のリーダーは、ABAC報告書を高く評価してくれた。
    また、今年は、ABACメンバーの他にメンバー国・地域から企業のCEOを招待してAPEC・CEOサミットが12月22日、23日の2日間行なわれ、20以上のセッションに分かれて討議が行なわれた。どのセッションも、議論がアジアの通貨・金融危機に集中する傾向にあった。特に、日本は、大手証券会社の倒産と時期的に重なったため、かなりの注目をあびる結果になった。討議の結果、
    1. 日本も含めアジアの通貨・金融危機は、政策的過ちによって生じたものであり、各国・地域のファンダメンタルズは健全である、
    2. IMFからの勧告も含め政策を修正するには、各国・地域のリーダーシップが極めて重要な役割を果たす、
    3. APECは、この危機によって自由化が減速・後退するのを防ぐ機能を有している、
    という共通の認識で一致した。


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