経団連くりっぷ No.69 (1997年12月25日)

バラバスキ欧州核融合計画評価委員会議長との懇談会/12月8日

欧州における核融合開発とITER


経団連では日米欧露の4極で研究開発に取り組んでいるITER(International Thermonuclear Experimental Reactor:国際熱核融合実験炉)の日本誘致に取り組んでいる。
1999年から2003年までの次期欧州核融合計画の審議に向け、「ITERは堅実かつ実現可能な計画であり、学界・産業界への効果等から欧州がホストすべきである」との勧告を盛り込んだ報告書を昨年12月に発表したバラバスキ欧州核融合計画評価委員会議長の来日を機に、同議長と経団連国際熱核融合実験炉日本誘致推進会議の委員とが欧州の核融合開発とITER計画の今後の課題などについて懇談した。

  1. バラバスキ議長説明要旨
    1. 国際的な産学共同と焦点設定の成果
    2. ITER計画の工学設計活動の進捗とそれに伴う技術革新はめざましい成果を上げている。核融合技術は実験炉の製作に止まらずCADやシミュレーション、モデリングなどかつて経験したことのない問題を克服し、核融合研究は新しい時期を迎えている。これだけの成果を上げられたのは、このプロジェクトが国際協力であったこと、さらにはITERの実現に焦点を絞った活動をしてきたからにほかならない。核融合の研究には全世界で約8,000人のプロフェッショナルが従事しており、92年のITERの工学設計活動開始以来、学界と産業界とが協力して、知識を生み出すのみならずそれを応用して優れた競争力のある製品を作り上げようという点に課題を絞り、研究開発を進めてきた結果が、大きな成果につながっている。

    3. エネルギー、環境問題とのつながり
    4. エネルギー問題への理解が進んだこともITER計画の前進に大きく寄与した。国民1人当たりのエネルギー消費量が国民の健康や教育までをも含めた生活の質全体に直接影響すると認識されている。しかし、世界の人口の7割が十分にエネルギーを使えないでいる。これは言い換えれば産業界にとっては巨大なエネルギー市場があることを意味している。
      また、エネルギーと環境との兼ね合いも重要である。COP3が大きな盛り上がりを見せているが、CO2の排出について、人々がようやく心配をするようになった。10月22日にクリントン大統領がCOP3に向けて「環境問題こそが来世紀の基本的な問題となる」という声明を出したこともその表れである。
      しかし、この声明にはひとつ欠けている点がある。それは原子力エネルギーについて十分な重みは与えられていないことである。フランス政府首脳などは、原子力がCO2削減を図る上で重要なエネルギーであることを米国に対して書簡で指摘している。私見ながら米国も原子力重視の方向へと戻らざるを得ないであろう。
      もちろんウランの利用にも限界がある。将来の原子力エネルギーの利用には価格も考えないといけない。われわれとしてはオプションを考える必要がある。イタリアの緑の党の党首と話をしたときに、「太陽で燃えているあの源は何か」と問いかけてみたところ理解が得られたのだが、核融合こそが自然が選んだメカニズムであることをもっと説明していくべきだろう。もっとも地球で核融合を実現するのは簡単ではない。知性のすべてを結集する必要がある。

    5. 今後の研究の展望
    6. 今までの実験炉で作られていたプラズマは真のプラズマではなく、シミュレーションにすぎない。トリチウムを使って実験していないのである。ITER工学設計活動は単に炉を作るだけではなく、工学上必要な装置をつくることを目指している。これにはコンピュータ・システム、CAD/CAM、モデリング、シミュレーション施設やメンテナンスシステムなど、産業界がかつて経験したことのなかったものが多く含まれている。

    7. ITER建設の見込み
    8. 日本のJT60も、EUのJETもめざましい成果を上げており、問題の中核にまで産業界は近づいている。こういう段階にあって評価委員会ではITER建設をスタートさせるかどうかを議論した。その結果、最終段階を完全に終わらせないで建設をスタートさせれば、いたずらにコストを膨らませることになり、工学設計活動は3年程度延長すべきだと判断した。実験施設がきちんと稼動できることが確認できてから、建設は開始させるべきである。具体的には7つの技術上の課題について結論を得ることとライセンシングを確認する必要がある。

    9. デザインガイドの作成
    10. この時期に、ITER設計報告書とは別に、産業界としてこれまで集積したノウハウを「デザインガイド」としてまとめるべきだと考えている。設計された炉は研究者の財産になるが、いかに設計したかという方法は技術者の財産である。産業界にとってはこうしたデザインガイドの方こそ意味を持つであろう。

  2. 懇 談
  3. 経団連側:
    EUではレーザー核融合を推進する研究者などが、トカマク型の炉を用いたITERに反対したのではなかったか。
    バラバスキ議長:
    反対はあった。これは政治問題である。「レーザー派」は予算を軍事からだけではなく民生部門からも得たいと考えてレーザー核融合を推している。しかしレーザーはシミュレーションにはいいが、発電にはトカマク型の方が優れている。

    経団連側:
    経団連の欧州エネルギー調査団で各国のエネルギー関係者にITERについて聞いたところ、まだ先のことだという反応であった。
    バラバスキ議長:
    欧州では安価な天然ガスが利用できるので、一般には切迫感はない。しかし、欧州のガスは20年で無くなる。日本のある企業の研究所の壁に架けられていた「生年百に満たず、常に千歳の憂いを抱く」という言葉が印象に残っている。長期的なビジョンを持つ人がいてこそ、ITERは推進される。

    経団連側:
    高速増殖炉計画の現状はどうか。
    バラバスキ議長:
    依然、選択肢のひとつではあるが、PA(パブリックアクセプタンス)は核融合の方がベターである。


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