むつ小川原フォーラム（座長　金谷邦男地方振興部会長）／11月７日

むつ小川原フォーラムを開催

1969年の新全総以来、ナショナル・プロジェクトとしてわが国の国土計画に位置づけられてきた「むつ小川原開発」をテーマに、国のエネルギー政策と地域との関わり等を討議するため、国土審議会計画部会委員の渡邉昭夫青山学院大学教授を現地青森県のむつ小川原に招き「むつ小川原フォーラム」を開催した。以下は渡邉教授の講演の概要である。
（むつ小川原のホームページはこちら）

国土政策は３つの変遷で議論されてきた。1930年代は「高度国防国家」であり、鉄道を整備するにも軍事的観点を考慮した。1960年代、1970年代は「高度成長国家」で、経済が国土政策の主軸に据えられた。この時代にむつ小川原開発がナショナル・プロジェクトに位置づけられた。こうした国土政策は石油危機を契機に変化を遂げた。21世紀に向けて生活を軸とした「高度安全国家」の時代を迎えようとしている。「安全」は国防や成長に比べ明確に示すことのむずかしいテーマであるが、21世紀のビジョンを見据えてどのような「高度安全国家」を目指すかを国土審議会で模索しているところであると私は位置づけている。
「地方」、「地域」、「地球」の３つの枠組みから国土政策を考えてみたい。
「地方」という観点から国土政策を考えるのがこれまでの発想であったが、これからは国を超えた地域という視点が重要であり、全総の新しい方向として取り上げられている。これにより地域と地域をつなぐ地球の視点が鮮明となってくる。
「地球」という視点からまず想起されるのが地球温暖化の問題である。12月に気候変動枠組み条約第３回締約国会議（COP3）が京都で開催される。CO₂の排出規制に積極姿勢を示す欧州に対して米国は消極的態度を示しており、議長国の日本はまとめ役の役割が期待されている。現状のままで放置されれば、2100年に海面は50㎝上昇し、日本の国土の多くも海に沈むこととなる。そうなると、小川原湖の水も汽水から海水になろう。南太平洋の島国では国土の大半を失う国も出てくる。
エネルギー問題と深く関わっているのが石油である。日本の高度成長を支えたのが中東の安価な石油であったが、その供給が決して安定したものではないことを示したのが２度の石油危機であり、最近の湾岸戦争であった。石油資源は紛争に巻き込まれやすいのである。こうした苦い経験を踏まえ、中東石油への依存をいかに抑えるか、またどう対応していくかにわが国は取り組んできた。むつ小川原に石油備蓄基地があるのもこうした政策の一環である。
橋本首相が今月サウジアラビアを訪問するように、当面は依然として中東石油は大事であるが、備蓄とともに供給地の分散化、すなわち供給地の分散と代替エネルギーの開発がわが国にとって重要となる。天然ガスが注目されているが、天然ガスを含め化石燃料は地球温暖化の問題もあり、また長い目で見ればいずれは枯渇するので、原子力エネルギーの活用と新エネルギーの開発が必要である。新エネルギーとしては風力、地熱、潮力などが実用化されつつあるが、30～40年後には核融合が出てくるだろう。
「地域」の視点でエネルギー問題を考えるとさらに深刻となる。アジア太平洋地域は1980年代半ば以降の経済発展によりエネルギー需要が急増し、エネルギー供給地からエネルギー消費地に転換した。中国も石油の純輸入国に転じた。
こうしたエネルギーの需給状況に環境問題も加わって、アジアにおいて原子力が注目され始め、今後原子力発電が急速に普及していく。日本の原子力は自国のエネルギー問題としてだけでなく、アジア諸国に必要な技術を開発し提供していく点においても意義を持っている。欧州のユーラトムを念頭に置いてアジアにも「アジアトム」を創設しようとの構想も一部にあるが、アジア太平洋地域に原子力のネットワークを形成することが今後この地域の重要テーマとなっていこう。
アジア太平洋地域での原子力エネルギーの普及にとって重要なことは、原子力エネルギーが安全でクリーンなエネルギーかどうかである。これは高度安全国家が国土政策を動かしていく上での課題である。
日米の学者同士の会議では、米国側はプルトニウムを柱とした日本の原子力政策に批判的で非常に厳しい態度を示している。日本の国内ではもんじゅ等管理・安全の問題のみに焦点を当てた議論が行なわれているが、米国は軍事・安全保障の観点から日本のプルトニウム利用に関して強い疑念を抱いている。米国の参加者には「北朝鮮は日本のプルトニウムに比べれば、実はささやかな問題だ」と言う人さえいた。
国策として正しいとされたものを日本のどこが担うのか。こういう問題に直面して初めて国と「地方」が重要なテーマとなる。
沖縄としては、国の安全保障上の沖縄の役割は否定するものではないが、なぜ沖縄がこれほどまでに負担しなければならないかという意識がある。沖縄にしても青森にしても中央からの距離がひとつのファクターである。むつ小川原も東京から距離がある。経済的には不利であるが、距離があるからこそ価値を有しているのである。国として重要なものが立地していることが沖縄の資産であり、国と交渉する際のバーゲニング・チップとなる。沖縄と同様に、青森のむつ小川原にも石油備蓄基地や原子燃料サイクル施設など国のエネルギー政策にとって重要な施設が立地しており、今後も発展していくポテンシャリティを有している。

原燃サイクル施設視察の模様

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