経団連くりっぷ No.70 (1998年1月8日)

なびげーたー

IMFの対アジア政策の問題点

国際本部副本部長 角田 博


タイ、インドネシア、韓国に対するIMFの政策は長期的視点を欠いており、アジア地域のデフレを深刻化させるだけではないかとの批判がある。

1930年代の大不況は(1)デフレ、(2)通貨切下げ競争、(3)保護主義の3条件がそろったために起こったと言われているが、現在その3条件が整いつつあるのではないかとの懸念が強い。

市場原理に基づく投機資金の自由な奔流の中で、各国が望んでいる以上の通貨切り下げ競争がすでに引き起こされている。

問題はデフレである。IMFはマーケットメカニズム至上主義の立場から、市場のコンフィデンスを勝ち取ることが先決として、増税、歳出削減による財政の健全化を求めている。タイ、インドネシア、韓国と経済の実状は違うのに引き締め政策一本槍である。IMFのスタンレー・フィッシャー氏はファイナンシャル・タイムス紙で、各国の成長率の違いに配慮し、異なる目標数値を設定していると反論しているが、もっと国毎に特徴のある対策が取れないものか。メキシコ危機の時には、インフレ再燃の懸念が強かった。メキシコの財政も赤字であり、厳しい財政赤字の削減を求めたのは理解できるが、今回も同じ対策でいいのか。

このような極度の緊縮政策は各国のデフレをさらに深刻化させ、その悪循環を通じて逆にアジア地域全体の回復を遅らせるだけではないか。IMFのやり方はとにかく借金を払わせるにはどうすればいいのか、ということだけしか考えていないように見える。

IMFの秘密主義でどこまでがIMFのコンディショナリティかよく分からないが、インドネシアにおけるファミリー・ビジネス、韓国の財閥のビヘイビアの是正等ではよくぞ言ってくれたという評価もある。しかし、産業、金融自由化の具体策を求めることについては、長期的には正しいとしても、このような時に自由化を急げば国内産業の崩壊を招き回復を遅らせるだけではないか。短期資金の過剰な流入とそれへの過度の依存が今回の危機を招いたことを考えれば、緊急措置として短期資金の流入を抑制する政策も考えるべきではないのか。

アジア諸国は貯蓄率も高く、優秀かつ勤勉な労働力もあり、潜在成長力は高い。この困難をうまくしのげば必ずや高度成長に復帰できる。長期的視点からの対策が求められる。

財政再建にとらわれすぎて、景気回復を遅らせてしまった日本の二の舞になるのは避けてほしい。それとも、今思い切った対策をとらなければ、日本のように解決を遅らせてしまうと考えるべきなのであろうか。

まず日本経済が一日も早く立ち上がり、アジア経済を引き上げることが最も重要であろうが、アジア・大洋州グループとしては、今年はアジアの通貨・金融問題について勉強し、日本の経済界としてどう対応すべきか考えていきたい。ご意見をお聞かせいただきたい。

(E-mail:kadota@keidanren.or.jp


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