経団連くりっぷ No.70 (1998年1月8日)

第592回理事会/12月16日

官民挙げて総会屋との絶縁を
─総会屋対策に関する商法等改正について法務省より説明を聞く


理事会では、先の臨時国会でいわゆる総会屋対策に関する商法等改正法案が成立したのを受け、法務省の森脇民事局長から改正の内容等について説明を聞いた。席上、森脇局長からは、「官民挙げての対策により総会屋と絶縁するには、この機をおいて他にない」との発言があり、健全な企業運営に努めるよう要請があった。

  1. 改正の背景
  2. 先の臨時国会にいわゆる総会屋対策の一環として提出した商法等改正法案は、全会一致で可決成立した。12月3日に公布され、同月23日に施行される。
    今次改正の背景には、会社運営の健全性を阻害する総会屋があとを絶たず、わが国経済の中枢にまで浸透していることが明らかになったこと、また、現行の罰則では抑止力が十分でないとの認識が高まったことがある。

  3. 改正の概要
    1. 株主の権利の行使に関する利益供与および利益受供与罪
      (商法第497条関係)
      1. 法定刑の引上げ
        法定刑を「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」から「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」に引き上げた。
        そもそも本条は、会社財産の流出防止、会社運営の健全性維持のため、一義的には、会社役員が利益供与を行なうことを犯罪行為としているものであり、それを確実にする観点から、総会屋も処罰の対象としている。この立法趣旨を改めて認識していただきたい。

      2. 利益供与要求罪の新設
        利益供与要求罪を新設し、法定刑を「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」とした。
        これにより、総会屋から不当な要求を受けた段階で捜査当局に届け出、処罰を求めることが可能となるため、企業が総会屋に対し毅然とした対応をとることが容易になると考えている。

      3. 威迫を伴う利益受供与罪および利益供与要求罪の新設
        威迫を伴う利益受供与罪および利益供与要求罪を新設し、法定刑を「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」とした。

      4. 併科規定の新設
        利益受供与または利益供与要求もしくは威迫を伴う利益受供与・利益供与要求の罪を犯した者に対しては、情状により、懲役および罰金の併科を可能とした。

    2. 会社荒し等に関する贈収賄罪
      (商法第494条関係)
    3. 法定刑を「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」から「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」に引き上げた。

    4. 取締役等の特別背任罪
      (商法第486条関係)
    5. 取締役等による利益供与は、特別背任に該当する場合があると解されるため、その法定刑を「7年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金または併科」から「10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金または併科」に強化した。

    6. 取締役等の汚職の罪およびに大会社の会計監査人の汚職の罪
      (商法第493条関係およびに商特法28条、29条関係)
    7. 取締役等会計監査人による「不正の請託」の法定刑を「3年以下の懲役または100万円以下の罰金」から収賄者の場合は「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」、贈賄者の場合は「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」に引き上げした。

    8. その他
    9. その他の罪についても、経済状況の変化、91年の刑法の罰金刑引上げ等を考慮し、罰金刑の上限を引き上げた。

  4. 国会審議の模様
  5. 今次改正に関する国会審議は、幅広い観点から行なわれたが、その一部を紹介すると、次の通りである。

    1. 総会屋との関係について
    2. まず、81年の商法改正以降も総会屋との関係を根絶できなかったのは何故かとの質問があった。
      これに対し法相からは、「さまざまな理由があるが、欧米の経営者と比較して、日本の経営者は体面を保つために妥協したり、議論を避けて、株主総会をできるだけ短時間で終らせようとする傾向がある。そのような企業風土、経営者の意識の問題がある」旨答弁した。

    3. 株主との関係について
    4. また、株主総会が形骸化しているとの指摘があるが、それを改善するにはどうしたら良いかとの質問があった。
      これに対し法相からは、「株主総会は、会社の所有者である株主によって構成される会社の最高意思決定機関であり、株主に対し十分な発言、質問の機会を与え、これを活性化することが重要である。株主との質疑応答を回避しないことが総会屋との関係を防止することになる。そのため、すでに取締役ならびに監査役に対し株主総会への説明義務を課すとともに、株主総会議長に対し秩序整理、退場命令の権限を与えるべく法改正を行なった。また、株主総会日が集中するとともに、総会が短時間で終了してしまうなど法の趣旨が活かされない運用がなされているのではないか」旨答弁した。

    5. 経営者の意識について
    6. さらに、経営者の意識改革を図るための環境整備が必要ではないかとの質問があった。
      これに対し法相からは、「81年の商法改正後も総会屋をめぐる事件があとを絶たないのが現状である。違法性を知りながら利益供与を行う会社側の意識が大きな問題であり、経営者の意識改革が必要である。そのため、関係閣僚会議を設置して、政府挙げて再発防止に取り組むとともに、11月6日には、経団連はじめ経済団体のトップに対し意識改革の必要性を強調し、総会屋との絶縁を要請した」旨答弁した。

  6. 健全な会社運営を
  7. 法務省としても、9月8日、日弁連に対し、企業からの相談に積極的に対応するよう協力を要請し、同月25日には、日弁連からこれを了承する旨の回答を得ている。
    官民挙げて対策を講じることにより総会屋と絶縁するには、この機をおいて他にない。国民も会社運営のあり方を大きな関心を持って注視しており、ぜひ、健全な会社運営に努めていただきたい。


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