経団連くりっぷ No.70 (1998年1月8日)

首都機能移転推進委員会新東京圏創造のためのワーキンググループ/11月18日

東京の地震対策について
伊藤東京都災害対策部長より説明を聞く


新東京圏創造のためのワーキンググループ(座長:國信重幸東京電力理事)では、第6回会合として、東京都の伊藤章雄災害対策部長を招き、東京都の地震対策について説明を聞いた。

  1. 阪神・淡路大震災の発生直後、犠牲者が50人程度と報道されていた段階で私は100倍の犠牲者が出ると直感した。近代都市は複雑であり、「目に見える部分」と「目に見えない部分」との差は100倍ぐらいはあると考えた。こうした問題意識をもちながら、日を置かずに東京都の地域防災計画の修正を手がけることとなった。

  2. 最初に方法を間違えると問題点を見失うことになる。そのため、地域防災計画の修正に当たっては、できるだけ科学的、客観的なアプローチを行なうこととし、KJ法などを用いて、テーマ別、時系列的にフィールドワーク、すなわち情報収集と現状分析を行ない、抽出された問題点と解決の方向を整理することに1カ月を費やした。具体的解決策は教訓別に19の部会を全庁的につくり、検討してもらった。

  3. 阪神・淡路大震災を契機として防災の考え方が変わったし、また変えなければならない。
    防災への取組み姿勢として重要なことは、第1に、リアル、明白、シンプルであることである。極限状態でものを考えるのに迷っては駄目である。しくみはシンプルに、命令系統も短くしておく必要がある。また専門家と行政の間でも曖昧さをなくすことが災害対策にとって大事なことである。地震部会では東京大学の溝上教授をはじめとする専門家と結論が一致するまで議論を尽くした。
    第2に、都市づくりを計画的にすすめることである。防災都市づくりは100年の視野で計画し、優先順位を決めて10年単位で実施することが望ましい。100年で地震に強い都市をつくってその後は安心して暮らす。首長の交替等に係わらず、着実に取り組むべきところに予算をつけて防災都市をつくる必要性を強調したい。
    第3は皆で備えることである。防災力は皆が横並びに備えてこそ最強になる。自らの身の安全は自ら守るという考えに立って住民、企業、行政が足並みを揃えて備える。被害は備えの空白地帯に集中する。神戸では社会構造の弱いところに被害が出た。

  4. 東京を襲う地震には、関東大地震と直下地震の2つが想定される。関東大地震は周期から言ってあと150年くらい先であるが、直下地震はいつ来てもおかしくないと言われている。都は直下地震の被害想定に関する調査報告書をとりまとめ、昨年8月に公表した。
    東京で過去に起こった直下地震の規模は安政江戸地震がM6.9、明治東京地震がM7.0、中央防災会議が切迫性ありとする地震がM7.0である。想定に当たってはエネルギーが2倍のM7.2の地震を想定した。また地表のゆれの大きさも震源からの距離別、地盤構造別に算出した想定値を1.5倍した。こうして危険度を二重に高めたゆれを想定したにもかかわらず、東京での最大震度は6強であり、阪神・淡路大震災でみられた震度7のゆれは発生しないことがわかった。震度7を出してほしいと先生方にお願いしたが、そのような設定は東京の地盤構造を考えると、科学的ではなくなり恣意になると言われた。調べると、関東大地震でも震度7は出ていない。東京には震度7は発生しないと言い切ることはできないが、限りなく発生しないと言えよう。
    今回の調査により直下地震の「顔」がはっきりし、対策が立て易くなった。なお、直下地震といえども東京での被害は局地的ではなく広範囲に発生する。

  5. 東京都の地震対策については、初動体制・情報収集伝達、救助・救急など教訓に基づいて今回強化した。特に重機械を備えたハイパーレスキュー隊、地震計ネットワークの構築、タクシーの無線を利用した被害情報の収集、医療やボランティアのネットワークの強化、災害弱者対策、木造住宅密集地対策等、阪神・淡路大震災でわかった問題の解決を図った。通信、交通、エネルギー、上下水などライフライン業界もそれぞれ補強・整備を行なっている。

  6. これからの地震対策としては「予防対策」が何にもまして重要だ。予防には「防災都市づくり」というハード面の対策と「地震に強い社会づくり」というソフト面の対策とがある。
    「防災都市づくり」では、都内に2万8,000haある木造住宅密集地の防災性の向上が急務である。このうち11地区、6,000ha分については、重点整備地区として早急に取り組むことにした。
    「地震に強い社会づくり」はソフトな対策である。地域住民の助け合い、ボランティア、企業や自治体の相互応援など、皆が手をつないで地震に対応する社会づくりが必要である。神戸でも助け合ったところは被害が少なかった。それにはまず、人々の危機に対するメンタリティの転換を図ることが大事である。ライシャワー元米国大使は日本人の意識を「タイフーン・メンタリティ」と喝破した。台風は予告された危機であり、対応にゆとりがある。皆で協力しあわなくとも多くはしのげる。そのためいつのまにか社会が縦割り、セクショナリズム構造になっている。これに対して地震は突然襲ってくる危機であり、縦割りの対応では乗り越えることができない。これは阪神・淡路大震災の際に、応援隊やボランティアとの連携がうまくいかなかったこと等を見れば明らかだ。
    ハード、ソフトのジョイント部分に日本の社会システムの弱さがある。「アースクエイク・メンタリティ」を育て、横の連携を強化しなければならない。

  7. 災害対策に関して企業には、
    1. 地震に耐えられるような建物や従業員、顧客の保護、
    2. 従業員とその家族の安否確認システムの確立、
    3. 地方からのボランティア受入れに関する窓口・リーダーとしての役割の発揮、
    4. 地域住民と協定を締結するなど地域ぐるみの災害対策の促進、
    5. 地震に強い社会づくりに対する普段からの参画、
    に取り組むよう要望したい。


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