経団連くりっぷ No.71 (1998年1月22日)

来賓挨拶

金融システム安定化と景気回復に尽力

内閣総理大臣 橋本 龍太郎


橋本内閣総理大臣 昨秋以来、私は6つの構造改革を総合的にやりぬいていくことを訴えてきた。少子高齢化社会の到来、経済のグローバル化によって企業が国を選ぶ時代となった今日において、わが国が従来のシステムのままでは世界の流れに取り残されてしまう、との危機感からであった。

構造改革を円滑に実施していくためには、当面する金融システム安定化と景気の回復に向けて目に見える対策を講じる必要がある。そこで第1に、金融システム安定化のための緊急対策として、時限的な特例措置として預金保険機構に金融危機勘定を創設し、破綻金融機関の受皿金融機関やその他きちんとした銀行を対象に、それらの優先株等の取得を行なうことで、自己資本の充実を図ることとした。このために政府は10兆円の国債と20兆円の政府保証を活用して金融システムの信用確保と預金者保護に万全を期す。自民党の提言を基に、政府は次期通常国会に法案を提出する。

第2は、貸し渋り問題への対策として、中小企業等への貸付けのために政府系金融機関に合計23兆円の資金を用意する一方、民間金融機関の融資対応力を確保するために、98年4月に導入が予定されている早期是正措置の弾力運用等を実施することとした。

また、わが国経済を回復軌道に乗せるべく、97年11月には大規模な規制緩和パッケージを中心とした緊急経済対策を発表したが、12月のクアラルンプールにおけるASEAN非公式首脳会議での議論を通じ、アジア経済の予想以上の深刻な事態を痛感した。そこで、わが国発の金融恐慌を起こしてはならないとの強い決意のもと、2兆円の特別減税を実施することとした。この他、法人税の実質減税、有価証券取引税の税率半減、地価税の課税停止等を内容とする平成10年度税制改正、先述の金融システム安定化策等が相乗効果をもってわが国経済を回復に向かわせるものと確信している。

一方、中長期的な構造改革としては、創造的・個性的な人材育成を目指した18歳未満の学生の入学拡充等の大学教育改革、技術の面では大学に存在する知的財産活用、産学連携等を進める。さらに世界にも例を見ない高コスト構造を改めるべく、期限切れとなる規制緩和推進計画を引き続き策定することなどを通じ、規制緩和を推進していく。企業税制についても平成10年度改正において、法人税の基本税率を米国を下回る34.5%に引下げたほか、さらなる検討を進めていくこととしている。

こうした改革によって実現される経済社会においては、企業の経営効率化や市場に対する透明性が求められる。総会屋等とのつながりを断ち切ることは不可欠であるが、これらの改革には「痛み」が伴う。しかし、21世紀に子供や孫が豊かで安心できる暮らしを実現するためには、われわれの世代が改革を実行していかねばならない。こうした転換期において経済界がその指導力を発揮されることを期待したい。


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