経団連くりっぷ No.71 (1998年1月22日)

宇宙開発利用推進会議企画部会(部会長 島山博明氏)/1月8日

「民間衛星打上げに伴う第三者損害賠償制度の早急な整備を要望する」をとりまとめ


わが国の宇宙開発は、ロケットシステム社(わが国民間企業72社が出資)が2000年度から海外の民間衛星を打上げる契約を交すなど、本格的な宇宙ビジネス時代を迎えている。そうしたなかで、産業界にとって、国の第三者損害賠償制度の整備が焦眉の急になっており、宇宙開発利用推進会議企画部会では提言をとりまとめ、その実現方を関係方面に働きかけている。
以下はその全文である。


民間衛星打上げに伴う第三者損害賠償制度の早急な整備を要望する

社団法人 経済団体連合会
宇宙開発利用推進会議
企 画 部 会

「第4のインフラ」活用の鍵を握る民間衛星打上げ

宇宙開発は、陸・海・空に次ぐ「第4のインフラ」として、着実に世界の人々の生活にとって重要な基盤になりつつある。既に、BS・CS放送、多チャンネルデジタル放送、インターネット、携帯電話、天気予報、カーナビゲーション、地図の作成、地球環境観測、国土保全・防災など、人工衛星を基盤にしたビジネスが展開されている。今後、社会の情報化、国際化の急激な進展によって宇宙空間活用のニーズはますます高まり、熾烈な国際競争と高度の技術力に裏打ちされた国際協調の時代を迎える。
米国は、「商業打上げは、自国の国家的利益及び経済的利益に貢献する」と見ており、欧州も宇宙へのアクセスの自在性の確保と、市場の需要に応える打上げ機の生産と商業化の推進を前面に出して、衛星打上げを自国の重要な戦略分野として積極的に支援している。
日本も、これまでの研究開発の成果によって技術的に欧米と肩を並べ、H-IIAロケットで海外の民間衛星の打上げを行う契約が交されるなど、宇宙ビジネスへの本格的参入が実現しつつある。この宇宙ビジネスが日本経済の閉塞状況を打開するトリガーになることが大いに期待される。

民間衛星打上げに不可欠な第三者損害賠償制度

そうした民間衛星打上げを日本で行う際に最も大きな障害となっているのが、打上げに伴う第三者損害賠償制度が整備されていないことである。宇宙分野の特性として、打上げから生じる損害の可能性は極めて低いものの万一生じた場合は極めて大きいものになりうる。そこで、国際条約(宇宙損害責任条約)を踏まえ米国や欧州では、一定限度額までは打上げ者が支払い、それを越える金額は国が負担し、衛星の顧客等に賠償負担を及ぼさない制度を持っている。打上げの顧客は、打上げ国にこうした制度があることを前提に契約を締結しており、日本が衛星顧客になる場合もこのような制度を前提としてきた。
日本は1983年に条約を批准したものの、国の機関が打上げを行ってきたため、第三者損害賠償制度は必要なかった。しかし、民間衛星打上げが現実のものとなった今日、上記の契約においては本年半ばまでに国内制度が整備されないと契約が無効になるおそれが強い。
今後、大きな新事業になると予想される宇宙分野で日本が欧米と競争していくためには、第三者損害賠償制度を本年半ばまでに整備して民間衛星の打上げが円滑に推進できるようにすべきである。その際、日本での民間衛星打上げは、宇宙開発事業団の安全管理責任の下で行われることを踏まえ、政府による賠償負担を定めた欧米と同等の制度を、国際的に顧客からもわかる形で創設すべきである。

以 上 


くりっぷ No.71 目次日本語のホームページ