経団連くりっぷ No.71 (1998年1月22日)

緒方貞子国連難民高等弁務官との懇談会(座長 糠沢専務理事)/12月25日

国際政治と開発問題を反映する難民の帰還


難民救済民間基金日本支援委員会では、一時帰国中の緒方貞子国連難民高等弁務官(UNHCR)を招き懇談会を開催した。緒方高等弁務官は、難民救済民間基金を通じたわが国民間によるUNHCRへの協力について感謝の意を表し、その使途報告を行なうとともに、難民の帰還問題を中心に最近の難民問題をめぐる動きについて説明を行なった。また、懇談会終了後、緒方高等弁務官は豊田会長(難民救済民間基金日本支援委員会代表)を表敬、懇談した。

緒方高等弁務官

  1. 世界の難民の数
  2. ここ2年、100万人単位の新規の大規模な難民流出は起きていない。UNHCRの支援対象である難民および国内避難民の数は、97年初で約2,270万人と前年に比べ130万人減少しており、全体的に見て難民問題は解決の方向にあると言える。また、万一難民の流出があっても、われわれは十分な即応態勢を整えている。職員はよく訓練されており、支援物資の在庫も十分にある。むしろ、われわれが現在悩まされているのは、難民の帰還に伴う諸問題への対応である。

  3. 難民の帰還
  4. 難民とはそもそも、紛争や政治的迫害等の理由で国内にとどまることができず、国外に逃れた人々のことである。したがって、こうした問題が解決すれば、あるいは逃れた先での境遇が極端に悪化すれば、彼らは帰還する。現在、リベリア(50万人)、トーゴ(30万人)、中央アジアのタジキスタン(2万人)等で難民の帰還が実現しつつあり、西サハラ難民も選挙による帰属決定を経て帰還する予定である。難民の帰還に際してUNHCRでは、
    1. 自発的意志の尊重、
    2. 安全と尊厳の確保、
    を条件としている。しかしながら、すべての難民が無垢であるわけではない。難民が紛争のどちらかの側に加担していることもあり、難民が紛争を激化させたり国内の紛争を国外に持ち込む場合もある。そのため、ひと口に帰還と言っても、さまざまな困難な事態に直面することがある。

  5. 難民の帰還をめぐる情勢─個別ケース
    1. ルワンダ
    2. ルワンダでは、フツ族(多数派)とツチ族(少数派)の部族対立による内戦から、多くの難民が周辺各国へ流出し、旧ザイール(現コンゴ民主共和国)へは約120万人が逃れた。彼ら難民の中には、旧政権下でツチ族の大量虐殺に関与した軍人等が多数紛れ込んでいたため、難民キャンプはルワンダ新政権にとって大きな脅威であった。UNHCRとしても一般難民と軍人・民兵との分離に努めたが、うまくいかなかった。そうした中、カビラ将軍率いるザイールの反政府勢力が96年11月、キャンプを襲撃し、一時、100万人の難民が行方不明になった。うち70万人は以後4日間でルワンダへ帰還したが、70万人という多数の難民がわずか4日で帰還すること自体も緊急事態であった。残りの行方不明者については、UNHCRの職員が密林の中を捜索して翌年1月までに25万人をルワンダへ帰還させた。ツチ族政権のルワンダへ帰還することをためらう難民もいて、自発的意志による帰還ではないとの批判もあったが、この場合は緊急避難と位置づけて彼らを帰還させた。しかし、ルワンダ国内の治安は不安定であり、今後も彼らはルワンダから旧ザイール、ルワンダへと避難を繰り返すことになるだろう。状況としては、まだまだ尾を引きそうである。

    3. ボスニア
    4. ボスニアでは、UNHCRは200万人にのぼる難民・国内避難民の帰還を手がけている。帰還に際しては、
      1. もといた土地へ帰る、
      2. 自分の行きたい土地へ帰る、
      を2大原則としており、96、97の両年で約40万人が帰還した。他方でわれわれは、ボスニア分割を奨励する結果にならないよう配慮し、彼らの移動の自由を保障するために分離帯を往来するバスを走らせている。また、ボスニア復興に際しては、女性を中心としたネットワークを作り、これを最大限に活用している。

  6. UNHCR活動の難しさ
  7. ポスト冷戦下では、難民の受け入れに難色を示す国が多く、UNHCRも間に入って苦労することが多い。難民問題解決のためには、対症療法的な支援ももちろん必要だが、長期的には和平と経済開発を進めて人々が平和で豊かに暮らせるようにすることが必要である。難民が国外に逃れた理由そのものを解決するという意味で、UNHCRも国際政治の動きや経済開発等の問題に深く関わっていると言える。難民の帰還のあり様は多種多様であり、人も資金も多く必要とする。また、武器をまったく持たないUNHCR職員の安全が脅かされることも残念ながら多い。ぜひ今後とも、UNHCRの活動に対する支援をお願いしたい。


くりっぷ No.71 目次日本語のホームページ