経団連くりっぷ No.71 (1998年1月22日)

21世紀政策研究所(理事長 田中直毅氏)/12月26日

第3回運営委員会を開催
不良債権処理方策について討議


21世紀政策研究所では、相次ぐ金融機関の破綻に対応して、昨年11月28日、12月24日の2度にわたり緊急提言をとりまとめた。一方、東アジアの経済変動がグローバルな経済システムにも影響を及ぼす懸念が生じてきたため、急遽、調査・研究を開始した。そこで第3回運営委員会では、これら2点について報告を行ない委員より意見を聴取した。

  1. 金融機関破綻に対応した施策
    1. 基本的な考え方(田中理事長)
      1. 11月28日の緊急提言では、公的資金投入は預金者保護のために行なうことを原則とした。政府・自民党の金融システム安定化策では、貸し渋りを回避するため、金融機関の資本充実を図るべく、公的資金による優先株の購入を盛り込んだが、現実には、そう簡単にできるものではない。
        ビッグバンによって、金融秩序を利害調整型の統治から自己統治にもっていくことが必要であり、貸し渋りに対しても、金融機関が貸出債権を売却してバランスシートを改善させることにより対応すべきである。

      2. 住宅ローン債権等の貸付債権を売却して得た資金の活用方法は2つ考えられる。1つはコールマネーの返済に充てることであり、インターバンク市場への依存を軽減し、財務バランスの改善を図ることができる。もう1つは新規貸出増に振り替え、貸し渋りを軽減することである。

      3. いずれにしても、個人資産の 1,200兆円をいかに活用するかという視点が重要である。 688兆円に上る現預金のうち、今後、400兆円程度は運用益を狙った金融商品に向かうことになろう。そのなかで金融機関は、住宅ローン債権や担保不動産の処分を通じて資産の圧縮をする一方、個人に対して低リスクで、相応の利回りが得られる商品を提供しなければならない。住宅抵当証券や不動産投資信託は、魅力的な商品として設計可能だ。省庁の壁を超えて、多様な証券化商品を個人投資家等に提供できるような仕組みづくりを政府に強く求めたい。

    2. 具体的な提言(鹿野研究主幹)
      1. 貸出債権の売却市場の整備のためには、まず貸付債権譲渡における第三者対抗要件具備の簡素化が不可欠である。個々の債権譲渡ごとの通知・承諾の手続きコストを抑えることができれば、投資対象として魅力が増す。緊急立法として早期審議・早期成立を求めたい。
        第2は、サービサー・リスクの発生を回避するため、貸付債権の売却後、回収された元利金を譲渡金融機関から信頼度の高い第三者機関への即時転送が可能となるよう、その管理のみを業とする受け皿機関を設立すべきである。
        第3は、抵当証券に対する信頼性の確保である。担保の土地・建物の収益還元価値を公表し、投資家がその信用度を客観的に評価できるようにするとともに、抵当証券保管機構が発行した預かり証の裏書譲渡を認めることにより抵当証券の流通性を高める必要がある。

      2. 不良債権の最終的処理のためには、借入人が担保として差し入れた土地・建物などを売却処分のうえ資金回収をはかる必要がある。土地・建物など担保不動産の売却に際しては通常、競売が利用されることから、最低売却価額決定方法の弾力化、競売回数の増加、不動産競売市場の全国市場化が重要な課題となろう。

      3. 加えて、種々の税制上の特別措置の実施を通じて市場価格に基づく不動産の売却を進めることも不可欠となろう(遊休地に対する課税の強化、不動産売却に係わる欠損金繰越し期間の時限的延長、売却損の拡大評価を通じた実質減税等)。

    3. 討議概要
      1. 貸出債権の売却やその証券化は長期的な課題ではないか。市場が未成熟のまま進めると、かえって金融機関のポートフォリオの質が悪化するのではないか。
        米国でもジャンクボンド市場は成立している。投資家は、リスクとリターンを十分考慮に入れて投資を行なっている。米国のS&Lの整理に当たっても、債権の証券化手法を用いていることを考慮すべきである。

      2. 公的資金の投入に当たって、借り手保護という視点は必要か。また、金融機関の早期是正措置の弾力化のなかで有価証券評価を原価法への切り替えが認められるが、情報開示の精神に反するのではないか。
        期末の決算対策による株式の売り圧力を回避するということで、早期是正措置の弾力化等に踏み切ったのであろうが、実効はあがるまい。住専問題での公的資金投入の経験もあり、預金者保護としか政府は説明できないはずだ。信用収縮をほぐしながら解決していくほかない。

      3. 地方の中小企業では、金融機関の有価証券を担保に融資を受けているケースがあり、金融機関が破綻すると経営が一気にたちゆかなくなる。米国ではかつて、経営実態のよい金融企業を皮切りに優先株購入を行ない問題を解決した。
        政府が優先株を購入する場合、相応の説明責任を伴う。事業会社と金融企業の経営問題は基本的に変わりはない。提言では、一切、優先株の購入を行なってはならないとはしていない。

      4. わが国でもかつて、石炭や農業に多額の公的資金が投入された例がある。かつて産業政策が必要であった産業と現在の金融産業との違いがあるとすれば、それを検証する必要がある。国民経済的にコストの安い施策を選択すべきではないか。
        わが国における非金融産業への公的資金投入は、設備廃棄を前提とした衰退産業対策であった。金融はそういう状況にあるかという点を考える必要がある。

  2. 東アジアの経済変動に関する研究(田中理事長)
  3. 欧州の各銀行が、東アジア各国に対する貸出残高を大幅に減らしているため、デフォルトの危機が迫っている。しかし、東アジア各国は貯蓄率が高いことから、潜在的な成長可能性は依然として高い。
    東アジア各国は、総じて政策のガバナンスが弱い。ガバナンスの利いた仕組みさえ導入すれば、健全な経済を取り戻せよう。
    東アジア各国は投資率のわりに成長率が低位にとどまっているが、その原因等についてまず研究を進めていきたい。


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