経団連くりっぷ No.72 (1998年2月12日)

アメリカ委員会(委員長 槙原 稔氏)/1月23日

現下のアジアの危機は、アジア、日本、米国にとっての試金石
−リーチ米下院銀行委員長の講演会を開催


米国下院のアジア金融調査団の団長として来日したリーチ下院銀行委員長を招き、アジアの金融危機と日本の金融システムに対する米国の見方について説明を聞くとともに、懇談した。以下はリーチ銀行委員長の説明の概要である。

  1. 米国経済は、現在、極めて良好であるが、アジアの経済危機は米国経済を失速させる恐れがある。

  2. アジア太平洋地域には、極めて深刻な経済的影響を及ぼしうる2つの政治的な問題がある。1つは、朝鮮半島情勢。韓国では、経済と安全保障は不可分と考えられており、新政権も引き続き経済に重点を置いて、諸改革を進めるだろう。韓国の経済構造改革の速さは、印象深い。

  3. 第2に、台湾の問題。台湾では政治の民主化とバランスのとれた経済成長が続いている。台湾の主権に関して、過度に北京を刺激しない限り、アジアの経済不安が台湾の経済的安定を脅かすことはないだろう。

  4. 中台間には、相互不信が根強い。最近の経済危機に乗じ、台湾がアジア諸国との結びつきを強化したり、香港ドルに圧力をかける目的で、通貨切り下げを行なうのではないか、と北京政府は強い疑念を抱いている。しかし、人民元の切り下げは行なわれず、香港ドルのペッグ制は維持されるだろう。

  5. 米国民は、IMFの貸付けにより、アジア諸国の対米貿易黒字が拡大することを警戒している。近い将来、日本を含めたアジア諸国との貿易黒字が、米国内で大きな政治問題になる可能性がある。

  6. 米国人は、米国が政治的にも、経済的にも、世界で孤立して生きていけないことをよく理解しており、世界の超大国として果たすべき役割も充分に認識している。ところが、国連分担金の拠出や貿易交渉に関するファスト・トラック授権、国際機関への貢献などの面で、議会は政治的な理由により、行政府に抵抗してきた。

  7. 議会の対応がどうであれ、米国はアジアへの関与を続けるだろう。米政府はIMFを通じて、アジアの金融問題に積極的に対応してきている。問題は、米企業が今後アジアでのビジネスをどう展開するかである。

  8. IMFに対する批判がいろいろと出ているが、経済的な危機に対処する恒久的な組織として、IMFが存在することは重要である。ただし、IMFは無償援助機関ではないので、過度にIMFに依存するのは好ましくない。金融危機への対処には、世界中の政府、銀行、企業、各国国民の協力が不可欠である。

  9. 現下のアジアの危機は、日米、アジア諸国にとって試金石となる。日本は、アジアと日本自身のために、内需主導型経済に転換しなければならない。アジア諸国には、経済回復のための緊縮政策が求められる。米国の課題は、孤立主義を払拭し、世界のリーダーとしての役割を引き続き果たすことである。


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