経団連くりっぷ No.72 (1998年2月12日)

地方振興部会(部会長 金谷邦男氏)/1月13日

大規模商業施設と周辺商店街とが一体となった
活性化を目指す博多の街づくり


地方振興部会では、中心市街地の活性化に関して検討を続けている。1月13日には、地域づくりの核として「キャナルシティ博多」を開発し、地元の商店街と一体になりながら民間主導の街づくりに取り組むエフ・ジェイ都市開発株式会社の藤 賢一社長を招き、懇談した。

  1. 藤社長説明概要
    1. 福岡・博多全体の中で位置づけた構想
    2. キャナルシティ博多は、映画館、劇場、ショッピングモール、ホテル、運河などを集積した「都市の劇場」をコンセプトとするエンターテイメントシティである。
      キャナルシティ博多は、新幹線の博多駅の移転に伴う都市の再編により、東のJR線博多駅と西の西鉄福岡駅周辺(天神地区)の谷間で地盤沈下していた旧博多地区に位置する。福岡、博多を一体としてとらえ、その中心部にある7万5,000坪の工場跡地に新しい都市を構築し、各地区とのバランスをとりながら都市の回遊性を高めることを狙いとする。地元の商店街と新都市との間には「夢の架け橋」という陸橋を掛け、陸橋のたもとの櫛田神社の山笠の祭りなども商店街と一体となって盛り上げるなど、周辺地域との連携を深めることにより求心力を高めている。
      この構想を発表し、大店法に基づく協議を経て実現をするまでには8年がかかった。地元商店街では、この構想への賛否について大きな議論があったが、郊外の大型店の進出などを背景に、この構想に同意しようと決意を固めてくれたのである。
      今や、キャナルシティ博多は平日で約3万人、休日で約6万人の人を集めており、回遊性の高さから、徒歩の客が多いために地元商店街も人の流れが3倍から5倍に増え、売り上げも向上した。博多全体の都市の求心力、地域全体の回遊性を高めることができた。

    3. 新都市の考え方
    4. キャナルシティ博多は「人間性の回帰」を求め、機能主義的な街ではなく、おもしろいまちづくりを行なっている。
      シティ内では、垂直方向においては高層階に劇場や映画館を配し、水平方向においては敷地の中心の最も価値の高い空間にあえて人工運河を引き、垂直、水平に高い回遊性を実現した。運河には20mの高さまで上がる噴水があり、水辺には柵を作らず子供たちが水に触れられるようにしている。ただし水の水深は70cmにし、雨水をろ過して飲める程度の水質を維持している。運河の周囲には木陰ができるような大きな木を配するとともに、一年中、世界の一流のパフォーマーや地域のアーティストが集う舞台を設置している。パフォーマーのレベルの高さから、この舞台に立つことがステータスになりつつあり、この舞台で伝統芸能を見せると訪れた若者も興味を引くようである。
      買い物など何か目的を持ってくる人だけでなく、ぶらぶら歩くことだけ、時間の消費だけのために集まってくる人にも楽しめる街をつくるように努めている。もっとも時間の消費のために集まった人々もその感動を何か持ち帰ろうと消費行動を起こすことが多い。キャナルシティの物販店は、バーゲンシーズンのみならず、夏休みシーズンなどにも高い売上げを記録している。

    5. 今後の課題
    6. キャナルシティ博多の集客力により商店街に人通りは戻ったが、商店街自体の求心性をさらに高めていかなければならない。しかし、キャナルシティのような近代性ではなく、博多弁のお年寄りの経営する商店のよさを引き出すことによって活性化を図るよう取り組まなければならない。
      また徒歩の客が増えたことにより、周辺の川をきれいにしようといった気運が生まれており、そうした気運を生かしていくことにも取り組んでいかなければならない。
      政府の中心市街地活性化策において「タウンマネージメント」という言葉が使われている。どのような都市をつくるのか、ハードのみならず都市の機能的、文化的な魅力の創出、安全性、利便性、快適性の維持といった都市経営の観点は重要である。地域の持っている市民にとって魅力のある要素をどう顕在化するかということが中心市街地活性化の鍵であろう。

  2. 懇 談
  3. 経団連側:
    シティ内のオペレーションの費用はどのように分担しているのか。
    藤社長:
    資産の保有者の組合とテナントによるまちづくり協議会から共益費を拠出して年間4億円を環境創出、清掃、安全管理などに費やしている。

    経団連側:
    来場者の比率はどうなのか。リピーターはどの程度なのか。
    藤社長:
    福岡都市圏で6割、圏外で3割、海外からが3〜5%で、構成は東京ディズニーランドに似ている。一年中、催し内容が変わるのでリピーターは6割以上である。映画館には休日だと1日8,000人が集まる。

    経団連側:
    物販施設と都市環境、文化施設との融合に成功した理由は何か。
    藤社長:
    これまでは行政が文化施設をつくり、それに制約を受けつつ、民間の物販機能を中心に据えた施設を組み合わせるまちづくりをしがちであった。キャナルシティは、行政から補助金を一銭ももらわずに、劇団四季の常設劇場や13の映画館を招くなど一見、無駄と思われる投資をすることにより、文化施設と商業施設、都市環境が融合を果たし得ているのだと思う。

    経団連側:
    運河は自然の川から引いてくることはできなかったのか。
    藤社長:
    建設当時は一級河川の水を引くことは無理だといわれたが、今では行政の側から「なぜ自然の川とつなげなかったのか」と言われるようになった。

    経団連側:
    行政の役割は何か。
    藤社長:
    地域を愛する行政の担当者が民間と一緒になって街を育てるという姿勢がほしい。また、キャナルシティのように安全、環境維持など都市を維持するコストに加えて固定資産税、都市計画税を納めている。このような民間の都市経営に、固定資産税等からの資金を直接入れることができればありがたい。


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