経団連くりっぷ No.72 (1998年2月12日)

物流部会(部会長 常盤文克氏)/1月14日

物流効率化に向けた方策


物流部会では、物流効率化の実現に向けた検討の一環として、一橋大学商学部の杉山武彦教授より物流効率化に向けた方策について説明を聞くとともに、懇談した。

  1. 物流効率化とその検討目的
  2. 物流効率化を進める目的としては、コストの削減、産業の国際競争力確保を図るという考え方に加えて、ある程度の費用は度外視して環境問題を上位の目的に据え、物流部門の環境への負荷を極力軽減していくという考え方も存在する。
    かつて、ジャストインタイムや多頻度少量輸送等が物流の非効率を生み出しているといった批判があったが、物流の効率化を検討する場合、最終的な消費者ニーズや物流サービスの利用者ニーズは抑制すべきではなく、前提として受け入れるべきである。
    また、物流効率化に向け、個々の主体の努力が集まった結果として全体としてコストの上昇が引き起こされる可能性もある。個々の企業の努力が産業全体、さらには消費者の利益につながるように制度、政策を確立していくことが最も重要である。このような点に留意しないと、高サービス、高価格だけを生み出す結果となりかねない。経済学の観点からは、低価格のサービスも含め、多様な選択肢が生み出されることが重要と考える。
    物流効率化を論じる場合、都市間物流、都市内物流、物流拠点の3つの領域に分けるのが一般的である。都市間物流ではモーダルシフト、都市内物流では共同化、物流拠点については最適配置、集約再編成など立地上の工夫が標準的な対応策である。

  3. モーダルシフトの可能性と必要性
  4. モーダルシフトは荷主や物流事業者の自由な選択の結果として生じるべきものである。したがって、各々の輸送モードが持っているコスト面、サービス面での特色を明確にすることにより、利用者の選択を通じたモーダルシフトを導き出すべきであり、直接的な誘導は望ましくない。モーダルシフト政策は、あくまでも競争環境の整備として位置づけられるべきである。
    現実の価格形成と費用負担のメカニズムが適切なものであれば、需要と供給相互の作用による望ましい結果が実現しているはずである。特にエネルギーコストや環境への負荷については、各輸送モードが過不足なく負担するようなメカニズムが形成されているかが問題となる。
    現実の物流を見た場合、適正な費用負担の障害となっているものが2つあげられる。1つは「外部性」であり、発生したコストの負担者が明確になっておらず、費用を発生させた当事者がその費用を誰にも払っていないケースである。これは科学的データに基づいて解決すべき問題である。もう1つは、取引の当事者間の「力関係」による歪みである。これについては、個々の企業がサービスに独自の強みを持ち、自立すること以外に解決の方策はない。荷主と物流事業者のパートナーシップという言葉があるが、互いにギブするものを持ちギブアンドテイクの関係になければ、真のパートナーシップとはいえないであろう。
    また、道路の混雑や環境問題、労働問題が深刻化していけば、モーダルシフトを進めていかざるを得なくなるという考え方があるが、一方で、他の先進国ではトラック輸送の分担率はわが国よりも高く、日本の現状は極めてノーマルであるという考え方もある。
    経済学に即して考えれば、モーダルシフトについては極めて限られた事しかできず、長い目で見るべき問題と言わざるを得ない。しかし、もし環境問題を上位に据えることを決断してモーダルシフトを強力に推進するならば、それもひとつの価値判断といえよう。

  5. 物流社会資本整備
  6. どの社会資本をどこに整備するかというマッチングを間違えないようにすることが重要である。その意味で、需要があるかどうかをこれまで以上に厳しくチェックし、先行投資という論理に寄りかからず、現実に需要が確認されるものについて社会資本整備を進めることが求められる。需要予測が厳しく行なわれるためには、地方分権を推進し地域が財政上、行政上の権限を持てるようにする必要がある。
    しかしながら、需要のチェックを受けることで市場原理を取り入れていく一方、社会資本整備に関する計画も非常に重要である。市場原理と計画原理は相補うものであり、ともに必要である。
    社会資本整備に係る費用負担と財源調達については、原理的には物流関連ということで予算や補助金を総合化してニーズに応じて個々の社会資本別、輸送モード別に配分する方が良いが、現実の社会の中では総合化したものを本当に賢明に使える体制ができているかが問題となる。
    社会資本整備の手法として、英国においてはPFIの導入により、政府の立場を道路等の社会資本のオーナー・管理者としての立場から、民間が提供するサービスを長期契約により購入して国民、利用者へ提供する立場へと変えようとする動きがみられる。今後、日本でもこのような考え方が出てくるだろう。

  7. 考慮すべき実態と近年の動向
  8. 物流効率化に取り組むにあたっては、先発企業と後発企業が混在しており、総体として後発企業の方が多いことを再認識した上で、最適な政策を考えていく必要がある。
    今後は、大手の事業者が開発したシステムに他の企業が相乗りしたり、さまざまなサービスを外注化することで効率化を図る傾向が進んでこよう。
    また、強い規制の中で競争が行なわれると、各企業の対応が一方的に高サービス、高価格へ向かうことになる。利用者の選択肢を広げる観点から引き続き規制緩和が重要である。


くりっぷ No.72 目次日本語のホームページ