経団連くりっぷ No.72 (1998年2月12日)

首都機能移転推進委員会企画部会(部会長 水上萬里夫氏)/12月12日

国会等移転審議会の審議状況と今後の方向


政府の国会等移転審議会において、その下に設置された調査部会を中心に首都機能の移転先候補地の調査対象地域設定に関する検討が行なわれるなど、首都機能移転は候補地の選定に向け新たな段階を迎えようとしている。そこで、同審議会を担当している国土庁首都機能移転企画課の大森課長を招き、審議会の審議状況と今後の方向について以下のような説明を聞いた。

  1. 96年12月に国会等移転審議会が審議をスタートして1年が経過した。この間、97年6月に財政構造改革会議等の議論を踏まえ、
    1. 財政構造改革期間(1998〜2003年度)は原則として新都市の建設事業に対する財政資金の投入は行なわない、
    2. 今後とも移転先候補地の選定等必要な検討は引き続き進める、
    3. 国会等移転審議会については、当初の目安とされていた98年秋の答申にこだわることなく十分な調査審議を行なう、
    を対応方針とすることを決めた。この決定により、世紀を画する年(2001年)にスタートとしていた新都市建設は、原則として2004年度以降へとスケジュールが変更されたが、新都市を建設する事業主体の決定、マスタープランの作成、環境アセスメントなどを建設を始めるまでに行なわなければならない。そうした状況を考えると、実際の建設に着手するまでには相当の準備期間が必要であり、スケジュールが変更されたと言っても時間は余りない。それほど遅くない時期に候補地の選定を行なう必要がある。

  2. 審議会では、第1ターム(概括的な調査)、第2ターム(属地的調査と現地調査)、第3ターム(候補地選定)の3つの段階に分けて調査審議を進めることとしている。法律に盛り込まれた東京都との比較考量についても審議会として検討していくこととなろう。
    現在は第1タームの終わりの段階にあり、全国を概観し、移転先候補地としてどのような地域が適地かを整理した。具体的には、国会等移転調査会報告で示された9つの選定基準を「移転先の位置の条件」に係わる項目(日本列島上の位置、東京からの距離等)と「移転先の新都市の開発可能性」(土地取得の容易性、地震・火山に対する安全性等)に係わる項目の2つに分け、「移転先の位置の条件」から調査対象地域の絞り込みを行なった。その際、地元の地方公共団体等が移転先候補地として誘致を表明している地域の特性の把握も行ない、調査対象地域とするかについて検討した。
    こうした作業を経て絞り込まれた調査対象地域を事務局案として12月8日の調査部会に提示したところ、対象地域の括り方に関して委員の意見が分かれた。そのため、部会としての案の取扱いは部会長一任となった。1月16日の審議会に部会案を示し、できれば調査対象地域を決定したいと考えている。(注)

  3. これまでの調査審議においては以下の4つがポイントである。
    第1に、首都機能移転問題に関する東京都の基本的考え方を聞いたことである。第4回の審議会において植野副知事からヒアリングを行なったが、東京都の主張は、
    1. 首都機能移転よりも地方分権・規制緩和を優先すべきである、
    2. 膨大な経費と時間をかけて首都機能移転を行なうことが本当に必要か。限られた経費を投入すべき重要施策は他にあるのではないか、
    3. 首都機能の移転は子々孫々にまで影響を及ぼす重大な問題であり、国民各層の広範な論議を踏まえて慎重に対応すべきである、
    の3点に集約される。これに対して国土庁は、国土の3.6%の東京圏に総人口の25.9%が集中していること等、東京一極集中に関するデータを審議会に提出し、過密の弊害が依然として深刻なことを説明した。

  4. 第2のポイントは、災害対応力の強化についてである。東京または首都機能移転先の新都市に大地震が発生した場合に関して、
    1. 現状のまま東京が被災する、
    2. 移転後に東京が被災する、
    3. 移転後に移転先の新都市が被災する、
    の3つのケースで被害想定と復旧活動の状況を検討した。災害対応力に関して検討した結果、首都機能を移転したケースでは、最大210haに及ぶ移転跡地の活用により東京の災害対応力が強化され、東京圏の被害は緩和され、また、新都市が被災した場合でも、計画的なクラスター開発により被害は極小化される。

  5. 第3のポイントである移転費用のモデル的試算については、建設開始後10年間の費用総額は4兆円、このうち公的負担は2兆3,000億円との結果を得た。平成4年に「首都機能移転問題に関する懇談会」が費用総額を最大14兆円と試算したため、これまで国民に対して一度にこれだけの予算が必要との誤った印象を与えてきたが、今回の試算で最初の10年間における1年当たりの公的負担は2,000億円強という数字が提示された。
    総費用に関しては、行政改革の議論を踏まえ、
    1. 行政機関の2分の1が移転するケース−総費用7.5兆円(公的負担3兆円、民間投資・負担4.5兆円)と、
    2. すべてが移転するケース−同12.3兆円(公的負担4.4兆円、民間投資・負担7.9兆円)
    の2つを試算した。

  6. 第4のポイントは文化的側面に関して報告書をとりまとめたことである。10月に公表された同報告書において、新都市のたたずまいは、軽やかな都市、落ちつきのある都市、ゆとりのある都市、新しい文化を体現する都市を目指すべきことが掲げられている。報告書を中心になってとりまとめた堺屋委員は、「ベルサイユは新しい時代を生み出すことができずフランス革命を招いた。くれぐれも新都市をベルサイユにしてはならない」と記者会見で強調した。

  7. 今後、具体的な調査対象地域の名前が出てくると、首都機能移転に対する国民の関心も高まっていくだろうが、重要なのはどこに首都機能を移転させるかではなく、政治と経済を分離することにある。政治機能と経済機能を切り離すと、政治や経済はどう変わるのかといった大事な議論がとかく忘れがちとなってしまう。
    新都市が未来の都市のモデルを提示することも大事な点である。環境共生型都市など、国民に対してビジュアルにその姿を示していくことが重要であると考えている。

(注)
本年1月16日の第9回国会等移転審議会において、調査対象地域として、北東地域、中央地域(東海地域、三重・畿央地域)が設定され、今後、各地域について詳細な調査が行なわれる運びとなった。

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