経団連くりっぷ No.72 (1998年2月12日)

インドネシアの政治経済情勢に関する懇談会(座長 立石信雄氏)/1月16日

インドネシアにおける通貨危機の現状と見通し


インドネシア通貨危機では、スハルト大統領がIMFとの間で合意したプログラムが確実に実行されるかどうかが注目されている。日本・インドネシア経済委員会では1月16日、外務省の平松アジア局南東アジア第二課長を招き、最近のインドネシア情勢と今後の見通しについて説明を聞くとともに、意見交換を行なった。

  1. 平松課長説明要旨
    1. インドネシアにおける状況
    2. インドネシアの状況は、われわれが描いていたシナリオと大きく変わってきた。当初は、97年5月に与党ゴルカル党が大勝し、スハルト大統領の再選の基盤は固まったかと思われた。しかし、その後通貨危機が発生し、経済および社会不安をも引き起こしている。
      97年10月、IMFを中心に約400億ドルを支援することになったが、スハルト大統領がIMFのプログラムを確実に実行するのかを心配する向きもあった。大統領が97年12月20日にインドネシア中央銀行の理事4名を解任したことや、98年1月6日に発表された予算が前年比32%増であったこと、またファミリー・ビジネスに対して十分な合理化がなされていなかったこと、などがその背景にある。
      さらに76歳のスハルト大統領の健康不安説がささやかれているなか、後継者が明らかにされていないことも将来の見通しを不透明にしている。
      その結果、市場の信任は回復せず、ルピアは現在底が見えない状況にある。民間企業のドル建て債務返済額も増大している。一部で買い付け騒ぎも発生し、経済不安が社会不安に発展する可能性も懸念されている。

    3. IMFや周辺国の対応
    4. こうした状況下、フィッシャーIMF副専務理事、サマーズ米国財務副長官がインドネシアを訪問した。クリントン大統領や橋本首相を含む各国首脳もスハルト大統領に働きかけを行なった。これを受けて、1月15日、スハルト大統領はIMFの経済改革強化策に合意した。
      その内容は、相当踏み込んだものであり、ファミリー・ビジネスの一環である国民車計画に対する補助金などを取りやめることになった。予算やその他の補助金についても見直される。
      このようにIMFとの間では合意に至ったが、ルピアは下落を続けており、市場は依然としてスハルト大統領の改革実行力に対して厳しい見方をしている。

    5. 今後の課題
    6. 最も重要なことは、スハルト大統領自らが改革に取り組む姿勢を世界に示すことである。情勢が急速に変化しているので、迅速な対応が求められている。
      当面はスハルト大統領の指導力に期待するしかないだろう。その過程で後継者を明らかにし、スムーズに権力が継承されることが望ましい。3月10日に国民協議会が召集され、正副大統領選挙が行なわれた後、今後のシナリオが見えてくるだろう。

  2. 質疑応答
  3. 経団連側:
    今後の最悪のシナリオはなにか。
    平松課長:
    スハルト大統領に対する説得工作が失敗し、スハルトとIMFとの関係が切れるようなことになれば、ルピアがさらに下落し、物価上昇に伴って、社会不安が暴動にまで発展する可能性もある。

    経団連側:
    インドネシアでは、農業が産業の中心である。都市で職を失った場合は田舎に帰れば良いのではないか。農業部門がある程度ショックを吸収できないか。
    平松課長:
    インドネシア国民の約80%は今回の通貨危機に関係がないと言われている。楽観的にみれば、全国民が窮地に陥るような状況ではない。

    経団連側:
    世銀は、IMFのような市場中心の解決は望ましくないと指摘している。IMFは先進国と後進国を同じように扱い、政治的な配慮をしていない。米国議会でもIMFの動きに反対する声が出ている。こうした動きをどう見るか。
    平松課長:
    通貨市場が好転しないのはそうしたIMFの政策に対する批判の影響もあろう。IMFにとっても、今回のインドネシア危機は正念場である。

    経団連側:
    インドネシア政府には米国で博士号を取得した人が多いと聞いているが、こうしたテクノクラートの影響はどうなったのか。
    平松課長:
    インドネシア大蔵省にはバークレー大学出身のいわゆる「バークレー・マフィア」がいる一方、最近は世代交代が進み「ハーバード・マフィア」などが台頭していると言われている。スハルト大統領の右腕であるウィジョヨ大統領顧問は、バークレー出身であり、今回のIMFプログラムを推進する経済活性化・安定化評議会の事務局長にも抜擢された。

    経団連側:
    米国は、タイや韓国の時に比べてインドネシア危機に対しては積極的に動いたという印象があるが、その背景は何か。
    平松課長:
    米国にとってインドネシア通貨危機は単なる経済問題ではなく、安全保障に関わる問題ととらえている。米国は、インドネシアの安定が地域の安定と発展につながると考えている。


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