経団連くりっぷ No.72 (1998年2月12日)

コスタ中南米経営者協議会副会長との懇談会(座長 高野尚彦氏)/1月16日

危機をバネに加速するブラジルの経済改革


中南米地域11カ国の経営者により相互交流の促進や同地域の各種政策課題の討議を目的に設立された中南米経営者協議会(CEAL)のコスタ副会長兼ブラジル支部代表を招き、メルコスールの動向や最近のブラジルの経済情勢等について説明を聞いた。コスタ副会長によると、ブラジル政府は97年のアジア通貨危機に対し迅速な対応策をとるとともに、経済改革をより一層加速している。民間企業も各種の改革・リストラを実施し、効率性、競争力の向上に努めている。

  1. メルコスール成功の理由
  2. メルコスールの設立以来、域内貿易の拡大のみならず、歴史的に対立関係にあったブラジルとアルゼンチンとの協調関係が促進されるなど、予想以上の成功を収めている。当初、メルコスールの有効性に懐疑的であったブラジル産業界、一般世論も、今日では大いに支持している。成功の理由としては、以下の3つの要素が考えられる。
    1. 関係各国で強権的軍事政権の時代が終わり、民主的制度が定着していたこと。
    2. ブラジル、アルゼンチンの経済が安定化し、近隣諸国との経済交流の拡大を図る動きが活発化していたこと。
    3. 各国で保護主義の撤廃、関税引下げ、経済自由化が図られた結果、外資が流入し、こうした政策の正しさが証明されたこと。
    今後の課題としては、短期的には税制、労働法、関税等の政策の統一、自動車関税問題の解決等、中長期的には共通通貨の創設、サービス産業、政府調達に関する政策調整、輸送インフラ整備等がある。
    米州自由貿易協定構想については、米国に対抗するための十分な時間を確保するためにも、2005年という現在の期限の繰り上げには反対である。

  3. アジア通貨危機と経済改革
  4. カルドーゾ政権の経済改革により、最悪の時期には月率80%にも達したインフレが97年末には前年比5%にまで収束した。この結果、低所得者層の購買力が増大し、経済・社会状況が大きく改善した。また最も閉鎖的といわれた市場の開放も進み、平均関税率は50%から15%に下がっている。政府の改革に合わせて民間企業も各種改革・リストラを実施し、効率性、競争力の向上に努めている。
    97年半ばからのアジアに端を発する通貨危機は、中南米諸国にも大きな影響を及ぼし、投機家はブラジル経済は破綻するとさえ断言した。こうした事態に対し政府がとった財政緊縮措置、金利引上げ等の対応策は、国際的に好意的に受け止められた。今回の危機による覚醒効果により、国会でも各種改革に真剣に取り組む機運が高まっており、大統領は本年中に税制改革に関する憲法改正法案を成立させる考えである。民間企業の立場から見ると、国内の最重要課題は教育である。その他、社会保障、住宅、道路等のインフラの整備などが重要である。


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