経団連くりっぷ No.72 (1998年2月12日)

日本ブラジル経済委員会/1月21日

迅速かつ強力なブラジルの危機対応
−日本ブラジル経済合同委員会事務レベル打合会開催


5月6、7日にサンパウロで開催予定の第7回日本ブラジル経済合同委員会に向けて、第1回事務レベル打合会を開催した。日本輸出入銀行清水調査役より、97年7〜9月の製造業を対象とする海外直接投資アンケート調査の結果、ブラジルが初めて中期、長期の有望投資国の上位10カ国に入った旨、報告があったほか、同行のダ・シルバ主任研究員より、アジア通貨危機の影響のなかでブラジル政府がとった対応策をめぐり、以下の説明がなされた。

  1. アジア通貨危機のブラジルへの波及
  2. アジア地域の多くの国々は、対外短期借入の増加に起因する対ドル固定為替レートへの切下げ圧力と、銀行の不良債権の表面化という共通の問題を抱えていたことから、今日の通貨危機はある程度予測可能であった。しかし他の地域への危機の波及の速度と規模は、予想を超えるものであった。ブラジルは、経常収支赤字の補填を対外資金に依存しており、またレアルのドルへのクローリング・ペッグ制を政策枠組みの基本としているため、この影響が最も大きかった国のひとつである。

  3. アジア危機以前のブラジルの経済政策
  4. 危機の影響が波及する以前のブラジル経済は、レアル・プランにより、5年間にわたり高成長を維持しながら、月率40%を超えるハイパー・インフレを年率4.0〜4.5%まで引き下げることに成功した。
    他方で、為替をアンカーにインフレの抑制を図ったため、実質為替レートが上昇したが、国内産業の競争力強化がこれに追いつかず、貿易赤字が増大した。貿易赤字削減のためには内需抑制策が必要であるが、財政改革が進まないため、金融引締め政策に頼らざるを得なかった。

  5. ブラジル政府の危機への対応
  6. 97年10月末の香港ハンセン指数の急落直後に、ブラジルでも株式指数が暴落し、レアルに対する切下げ圧力が高まった。これに対し、ブラジル政府はIMFスタイルの安定化プログラムを採用した。すなわち、危機の直後に翌日物金利を2倍の40%に引上げるとともに、外貨準備100億ドルを投じて外貨需要に対応し、続いて包括的な財政改革パッケージを打ち出した。このように危機による覚醒効果で望ましいポリシー・ミックスが実現し、対外資金調達ニーズが大幅に減少した。

  7. 今後の課題
  8. 政府の迅速かつ強力な対応の成果が表れる一方で、
    1. 過度な景気後退を防ぐための高金利の段階的引下げ、
    2. 連邦・地方双方のレベルでの財政改革の継続、
    3. クローリング・ペッグ制の下でのレアルの漸進的切下げと工業部門の競争力強化による貿易赤字の縮小、
    4. 銀行部門の強化、
    などが今後の課題として浮上している。しかし国際金融情勢にこれ以上の大きな混乱がなければ、現在の政策枠組みを維持していくことは可能であろう。


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