経団連くりっぷ No.72 (1998年2月12日)

欧州統合問題研究会(座長 糠沢和夫専務理事)/1月19日

英国から見たユーロ
−ユーロ導入のシティへの影響


欧州統合問題研究会では、駐日英国大使館のロバート・ジョン・エバンス金融担当参事官より英国からみたユーロについて説明を聞くとともに懇談した。

  1. はじめに
  2. ブラウン英国蔵相は、1997年10月27日の声明で1999年1月1日、あるいは次期総選挙までに英国がEMUへ参加することを期待するのは現実的ではない旨を明言している。
    英国がEMUに参加すべきか否かという政治的な問題の他に、仮に参加する意向があったとしても参加できるかどうかという技術的な問題もある。
    加わるかどうかは英国にとって“明確かつ明白な”利点があるという経済基準をクリアした後になる。その基準とは以下の5点である。

  3. 5つの経済基準
    1. 収斂
      英国と他の単一通貨加盟国との間に持続可能な収斂はあり得るか否か。

    2. 柔軟性
      起こりうる問題に対し、処理するに充分な柔軟性があるか否か。

    3. 投資
      対英投資に長期的な決断を下す際、企業にとってより良い環境を創出できるか否か。

    4. 金融サービス
      英国の金融サービス産業、特にシティの銀行間取引市場の競争力のある地位の強化にEMUはいかなる影響を与えるか。

    5. 雇用と繁栄
      EMUは繁栄と安定、雇用を促進することになるか。

  4. シティへの影響
  5. たとえ英国がEMUに当初から参加しなくても、欧州におけるロンドンの地位については楽観的な見通しを持てる理由が多くある。下記のとおりである。
    1. ロンドンは欧州というよりは、世界の3大国際金融センターの1つであり、この役割はEMUによって低下するものではない。
    2. 金融部門での競争の激化が、ロンドンにとって有利に作用している。
    3. 国内外の銀行等、機関の拠点は一層ロンドンに集約される傾向にあり、結果として、大ロンドンで約60万人が金融関係の仕事に従事している。これはフランクフルトの全人口と同じ規模である。
    4. 国際金融活動の経済状態は各時間帯地域(アジア、北米等)の1ヶ所に集約される傾向にあり、欧州の時間帯地域については明らかにロンドンが選好されている。
    5. EMUに左右されないと考えられるロンドンの魅力は、
      1. 豊富で質の良い労働力、
      2. 効率的なインフラ整備、
      3. 多様な市場や充実した各種の金融サービス、
      4. 整備された法制度・会計制度、
      5. 有利なコミュニケーション手段(英語)、
      等である。

    以上から、シティの将来は明るいと言える。金融活動は最も利便性が高く、かつ利益率の高いところでおこなわれるのが現実である。英国がEMUに加わるかどうかは決定的ではないが、いずれにしても、シティは広く、透明な市場を形成し続けることになるだろう。
    もちろん、ロンドンは卓越した地位を当然の権利として有しているわけではない。常に切磋琢磨が必要である。欧州金融の中心としてのロンドンの将来に大きな影響を与える要因は2つある。1つには安定したマクロ経済政策との関係。2つめはユーロの導入のための準備の度合である。英国はこうした問題に十分な対応を検討している。例えば、英国銀行に対し、通貨政策について独立性を付与したのもその一環である。

  6. 将来の見通し
  7. 欧州全域で競争力を有する企業の創出のみならず、今や英国の金融部門は、産業全体の再構築がすすんでいる。このように単一通貨が実際に導入される前からすでに好ましい影響が生じている。
    単一通貨の導入の移行期間における鍵となるルールには、「強制しない」「禁止しない」といった事項がある。したがってユーロに参加しなくても英国内金融市場に対するインパクトは予想以上に大きなものとなる。
    英国の単一市場(ユーロ)への参加は、現時点では、まだ不可避とは言えまい。しかし参加しなくても参加した場合と同じくらい多くの問題を抱えることとなる。英国の金融財政政策は、ユーロ圏内の政策との結合が進展することになるだろう。好むと好まざるにかかわらず、ユーロ圏という巨大で経済的に同質の地域から受ける影響は、その大きさゆえにとても無視することなどできないのである。

  8. 結論
  9. ユーロが成功することは英国にとって大変重要である。EU議長国として本年5月の英国での欧州首脳会議において、英国は、EMUが順調に滑り出すために大切な役割を果たすだろう。


くりっぷ No.72 目次日本語のホームページ