経団連くりっぷ No.72 (1998年2月12日)

防衛生産委員会(総合部会長 西岡 喬氏)/1月21日

防衛産業における日米協力の推進を
−ギャンスラー米国国防総省次官との懇談会を開催


経団連防衛生産委員会(総合部会長:西岡喬三菱重工業常務取締役)では、1月20日に開催された日米装備・技術定期協議(S&TF、国防総省と防衛庁の装備局長レベルの会合)のために来日したジャック・ギャンスラー米国国防総省次官(取得・技術担当)を総合部会に招き、今後の日米防衛装備・技術協力の展望等について説明を聞いた。なお、当委員会では、米国の防衛産業界との間で日米防衛産業間の初の対話の場である「日米安全保障産業フォーラム(IFSEC)」を設立し、昨年10月に日米防衛・装備技術協力を推進するための課題について日米共同提言を取りまとめており、上記のS&TFにおいて報告した。以下は同次官の説明の概要である。

  1. 米国の国際協力装備プログラムの問題点
  2. 国防長官の諮問機関である防衛科学委員会が過去の国際協力による防衛装備プログラムを検証した結果、いくつか問題があることがわかった。
    第1に、国際協力プログラムには軍において優先順位の低いものが選ばれていた。第2に、プログラムの参加国の軍事的要求性能をすべて満たそうとした結果、装備が高価になっている。第3に、国際プログラムに参加する政府がどの企業に何を生産させるか直接指示をし、市場の競争に委ねなかったという点である。

  3. 日米の共通ニーズに基づく防衛装備協力
  4. 日米間で防衛装備での協力を成功させる第1の鍵は、共通の軍事的ニーズのある分野で協力をスタートさせることである。新ガイドラインにより日米の軍事面での協力が増えれば、装備面での協力も増えていく。具体的な協力分野としては、通信、情報収集、防空、敵味方の識別、兵站支援があり、このような分野で日米共通の要求を満たす必要がある。双方にとって、決して優先順位が低く予算のつかない分野を協力の対象とすべきではない。
    第2の鍵としては、予算が限られていることを踏まえ、その中で要求性能を吟味していくことである。日米は軍事的なオペレーションが異なり、双方の要求を単純に足すと、複雑で高価な装備になってしまう。一方が高速の飛行機、他方がより高い高度を飛べる飛行機を求め、高々度を高速で飛べる飛行機を作ろうとすると、両国の調達可能な財源では限界がある。
    第3の鍵として、日米両政府がすべきことは、ビジネスのルールを決定することである。次の段階としては、政府ではなく産業界が最善のチームを選ぶことである。ひとつのプロジェクトに各国からベストの能力をもつ企業を集め、共同開発を落札することが望ましい。政府の指示でミサイルは日本企業、レーダーは米国企業が担当するというような国ベースの分担を決めるべきではない。
    今回の日米装備・技術定期協議(S&TF)では、新しいモデルにより協力を拡大していこうということで、有人および無人の航空機、通信、防空等の分野で具体的な進展があった。昨日、来日中のコーエン国防長官と久間防衛庁長官との会合において、コーエン長官から、共通の国防ニーズに基づいた協力が重要であり、弾道ミサイル防衛が日米間の協力として望ましいということを説明した。

  5. 日米防衛装備・技術協力の展望
  6. 今後の防衛装備・技術における日米両国の協力の可能性は過去に比べて大きくなっている。両国とも予算が減少する中で装備の近代化が必要であり、何らかの協力を模索していかなくてはならない。しかし、何を選択するかが難しい。新たな脅威として巡航ミサイル、弾道ミサイル、生物・化学兵器、リモート・センサーを使ったスマート兵器、情報戦といったものがあり、このような脅威に対抗できるよう、弾道ミサイル防衛、巡航ミサイルの迎撃、センサー、バトル・マネジメント、通信等の従来とは異なる新しい装備において日米の協力が重要となる。

  7. 日米安全保障産業フォーラムの継続
  8. 日米防衛産業界の初の対話のチャンネルとして設立された日米安全保障産業フォーラム(IFSEC)については、単発ではなくこれからも継続し、産業界として政府に影響を与え続けてもらいたい。IFSECは共同提言の中で、日米装備・技術協力を推進するために5つの具体的提言を提示しているが、現状の改革のためには産業界からの影響が必要であり、改革のチャンスは広がっており、提言が実現する可能性はある。
    また、今後の防衛産業においては、民生分野と軍事分野の統合が必要と考えるが、そのためにはいろいろな障害がある。IFSECにおいても、そのための課題が何であるか検討し、日米両政府に対して提示してもらいたい。

  9. 米国防衛産業の新たなモデル
  10. 米国政府は防衛産業界に何をすべきか指示する立場にはないが、装備の買い手として指導する能力はある。私は来日前に米国主要防衛企業のトップを招集し、3つの柱から成る防衛産業の新たなモデルを提示した。
    第1は、米国防衛産業の垂直および水平双方の統合が進む中で、競争を維持していくことである。
    第2は、防衛企業において軍事分野と民生分野を統合していくことである。例えば、TRWという米企業では、フレキシブル・マニュファクチャリングにより、F22戦闘機のエレクトロニクス部品を自動車用のエレクトロニクス部品を製造するラインで作り、コストを50%も削減している。
    第3は、グローバル化であり、米国は世界中から調達を行なうつもりである。その背景には、今後の紛争においては米国一国で解決にあたるのではなく、同盟国と連合を組んで対応するという方針がある。したがって、装備のインターオペラビリティの確保、軍事目標の共有、それに基づく装備の設計が必要となる。
    国防総省が提示したものは、従来とは異なる防衛産業の姿であるが、これは世界の地政学的方向や軍事技術・経済社会面の変化と一致した防衛産業の変化である。
    国防総省としては、政府が防衛産業に口を挟むのではなく、産業界ベースで新たなモデルを進めてもらいたいと考えている。技術革新がもたらす軍事革命(Revolution in Military Affairs)と同様に、アウトソーシング、設備のダウンサイジング等により防衛産業にも“Revolution in Business Affairs”が進むであろう。日本の防衛産業にもこのようなことを念頭において、日米間の協力に対応してもらいたい。


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