経団連くりっぷ No.73 (1998年2月26日)

中近東地域駐在大使との懇談会(司会 小長委員長代行)/1月28日

わが国経済の生命線である中東情勢について


中東アフリカ地域委員会では、毎年、外務省において中近東地域駐在大使による大使会議開催の折に、関係大使を招き、意見交換をしてきた。本年は、天江外務省中近東アフリカ局長ならびに大使22名を招き、最近の中東情勢や主要国情勢について意見交換した。

  1. 天江外務省中近東アフリカ局長
  2. 中東には、さまざまな不安定要因がある。現在は、とくに中東和平プロセスの先行きに関する閉塞感が強く、あまりよい材料が見つからない。パレスチナ側は危機感をもっており、日本のプレゼンスが問われている。外務省としては、これを絶好の機会ととらえ、積極的に対応していく所存である。
    とくに日本は、ODAという有効な政策手段をもっており、予算削減の中にあっても、対中東支援を一層充実させていきたい。また顔の見える外交を実現するためにも、これら地域に対する文化交流を今後とも力を入れていきたい。なお経団連には、トルコにおける土日基金文化センター建設のための募金に協力いただいており、感謝している。

  3. 小原エジプト大使
  4. 昨年11月のルクソール事件以来、エジプトへの観光客が大幅に減った。しかし、この事件は警備上の盲点をつかれたできごとであって、テロは十分に抑え込まれている。その後、再発を防ぐために治安維持は強化されている。国内政治的にも、現政権は盤石である。
    エジプト経済は、政治同様安定している。インフレ率は4%まで低下し、外貨準備高も、現在195億ドルと、大幅に増加している。これらの数値は、年率5%という経済成長率によって裏付けられている。エジプト政府は、外資導入にとくに力を入れている。

  5. 遠山トルコ大使
  6. トルコでは、ユルマズ政権誕生以来、内政は安定しており、経済面でも徐々にインフレ率を引下げる等、しっかりした足取りの経済成長を続けている。中でも、進出日本企業の業績は、高く評価されている。
    一方対外的には、EU加盟対象から外れたこともあり、現政権は、日米への接近を強めている。トルコとの関係は、旧ソ連の中央アジア諸国との関係を考慮すれば、今後も重要性を増すことはあっても減じることはない。

  7. 須藤イラン大使
  8. 昨年8月の新政権誕生後、対外関係の改善を図るハタミ大統領のイニシアチブがはっきりと打ち出されつつある。ハタミ大統領の政策の基本には、法による支配、EU・アラブ諸国との関係改善、外資の導入、言論自由化をはじめとする文化交流の拡大などがあり、今のところ着実に実施に移されている。
    問題は、大統領とはいえ、国内では宗教指導者に次ぐ地位にすぎないことである。
    全体的な傾向が明確となるまでには、時間を要しよう。米国も、制裁解除までに、時間をかけてイランの動きをみていくつもりであろう。しかし外交以外の交流は、着実に実施していく必要があり、経団連ミッションの早期派遣を希望している。

  9. 渡邊アルジェリア大使
  10. 政府軍とテロ組織の相対的な力関係が大幅に変化していない以上、アルジェを中心とした都市部のテロが、近い将来になくなるとは考えられない。一方、アルジェリア経済は、マクロ的には良好であり、IMFの優等生である。欧米系金融機関の進出も始まっている。

  11. 高野サウジアラビア大使
  12. ファイサル国王は健在で、またアブドラ皇太子はすでに国政の70%を任されている。財政も正常化しつつあり、国政は安定している。政府も民間も自信をもっており、巨大プロジェクトも再び動き出している。97年には11月の橋本首相訪サをはじめ、官民の交流が深まった。サウジ側も日本との関係がよくなったと考えており、現地の邦人企業によれば、商談はまず日本企業にもってくるようになったと聞いている。98年には高等教育大臣、リヤド市長や国会議長の訪日が予定されている。

  13. 川島イスラエル大使
  14. ネタニエフ首相は、国内諸勢力の圧力もあり、中東和平プロセスを積極的に動かせない状況にある。このような状況では、米国も積極的には動きがたいといえる。かかる状況の下ではあるが、わが国は、和平プロセスを支えていくつもりである。
    一方イスラエル経済は好調であり、わが国企業との関係も次第に深まってきており喜ばしい。経団連が、これまで主導的な役割を担っていただいたことを多としている。

  15. 香田オマーン大使
  16. オマーンにとって石油は市況商品ではなく戦略物資である。現在の産油量は、日産90万バレルであり、国家財政の80%を支えている。石油輸出の過半が日本向けである。アジア諸国は、今後の対中東石油依存度の高まりを睨んで、中東諸国との関係を戦略的に強化しつつある。日本としても、長期的なエネルギー安定確保の観点から、中東との関係を考え直す時期にきている


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