経団連くりっぷ No.74 (1998年3月12日)

インドネシア商工会議所連合(KADIN)との懇談会/2月20日

通貨危機に直面するインドネシア経済界


インドネシア経済界は深刻な経済危機に直面している。その現状について日本企業の理解を求めるべく、アブリザル・バクリーKADIN会長およびバラムリ インドネシア日本経済委員長がこのほど来日し、豊田会長、末松アジア・大洋州地域委員長ほか経団連の関係メンバーと会合を持った。その際、危機克服のため「日本の経済界がインドネシア経済の将来性を信頼している旨、対外的に明らかにしてほしい」と求めた。

  1. アブリザル・バクリー会長説明概要
  2. バクリーKADIN会長

    1. 通貨危機の現状
    2. 97年7月にタイに始まった通貨危機は、インドネシア、韓国へと波及し、日本経済にも影響を及ぼしている。
      日本はアジアで最も影響力があり、インドネシアにとっても最大の投資国であり、日本の銀行や商社、投資家は、極めて関係が深いインドネシアに多額の債権を持っている。インドネシアの経済界としては、日本が危機克服のため、支援策を講じてくれることを期待している。
      インドネシアが通貨危機に陥った最大の要因は多額の短期債務(期間1カ月〜12カ月)であり、民間部門が抱える債務全体の約8割を占める。インドネシアから欧米諸国に流出する資金のほとんどは長期であるが、欧米諸国からインドネシアに流入するものは短期資金が多い。
      インドネシアの金融市場はパニック状態になり、ルピアに対しては過大な引下げ圧力が加わっている。97年7月には1ドル=2,400ルピアであったが、98年1月には1ドル=17,000ルピアにまで下落した。その結果、ドル建てで借り入れた債務の負担が急激に膨らみ、民間企業は支払い不能に陥っている。国内の流通システムは麻痺し、国の至る所で食料品不足が発生している。

    3. インドネシア経済の展望
    4. もともとインドネシアは貯蓄率が高く、国民は勤勉で、教育も行き届いており、政府としても自由化政策を推進しているので、いずれ経済は回復するだろう。政府部門は、債務超過に陥っている民間部門とは異なり財政状態が良好である。
      また外貨準備は170億ドルであり、石油、ガス、金属、ほか一次産品の輸出からは十分国庫への歳入も期待できる。貿易収支は黒字基調が続いており、インドネシア企業の新規設備投資が国内経済を牽引することになろう。株価は3〜6カ月後に底を打つものと考えられる。

    5. ドル・ペッグ制導入の検討
    6. 98年2月にドル・ペッグ制(CBS:Currency Board System)の導入が検討されはじめてから、為替は1ドル=13,000ルピアから1ドル=7,200ルピアに上昇し、市場は好意的な反応を示した。
      インドネシア政府がドル・ペッグ制を導入した場合、1ドル=5,000ルピアを目標とするだろう。再び、市場が良い反応を示すことを期待する。
      ドル・ペッグ制を成功させるためには、インドネシア政府がリーダーシップを発揮する必要がある。構造改革とくに金融部門に対する抜本的な改革、さらに貿易・投資の自由化が市場のコンフィデンスを回復させることになろう。

    7. IMFおよび日本からの支援
    8. インドネシアの経済界としては、IMFの枠組みは「インドネシア政府とIMFとの間で合意された経済運営の規律である」と前向きに捉えている。ドル・ぺッグ制に対してもIMFの支持が重要だと考える。引き続き日本政府ならびに経団連からの支援と助言を得たい。

  3. 意見交換
    1. 経団連側発言
      1. 97年10月にIMFの枠組みの下でインドネシアに対する400億ドルの国際的支援が決まったが、当初の98年度予算は拡張的であったために、市場は厳しい反応を示した。カムドシュIMF専務理事がインドネシアを訪問し、再度、合意の遵守をスハルト大統領に求めた。その後、ドル・ペッグ構想が伝えられたが、1ドル=5,000ルピアで固定するのは難しいと思う。IMFはドル・ペッグ制を認めない可能性が高い。

      2. 日本政府は、日本輸出入銀行を通じて現地の政府機関や銀行経由で企業にに対して「ツー・ステップ・ローン」を供与し、また貿易保険の引き受け姿勢を維持し、食糧や医薬品など生活必需品の確保に対する支援を準備している。

      3. 中長期的には、
        1. 円の国際化を進めASEANにおける円建て決済を推進すること、
        2. 日本市場を開放しインドネシア製品の輸入を促進すること、
        3. 技術移転を進め中小企業を中心とした裾野産業を発展させること、
        4. 人材育成とくにローカル・エンジニアの技能向上に貢献すること、
        などの対策を講じることが重要である。

    2. KADIN側発言
      1. 今回の危機は多額の短期債務が主因だが、これは金融市場のグローバル化の結果であり、インドネシア固有の問題ではない。

      2. IMFのコンディショナリティーは一貫性に欠ける。IMFは98年度当初予算の改定を要求した。IMFは、この予算の前提となる成長率を4%から0%へ下方修正したが、所得税や付加価値税による歳入額は修正しなかった。成長率を下方修正したのに、税収入が同額の見積りになっているのは問題である。

      3. 現下の問題を誇張し、必要以上に悲観するのは意味がない。冷静さを保ち、希望を失うことなく、両国が一丸となって努力することが肝要である。今後日本が具体的な支援策を検討する際には、このような点を考慮してもらいたい。また、問題解決のために時間的な余裕を与えてほしい。


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