経団連くりっぷ No.74 (1998年3月12日)

ヘルスケアビジネスワーキング・グループ(座長 熊谷 巧氏)/2月4日

高齢化と福祉改革について
─八代上智大学教授から説明を聞く


経団連では、医療福祉サービスの質的向上を図る観点から、ヘルスケアビジネスの発展のための方策について検討するために、新産業・新事業委員会の企画部会の中にヘルスケアビジネスワーキング・グループ(座長:熊谷 巧日興リサーチセンター常務取締役)を設置した。その第1回会合に上智大学国際関係研究所の八代尚宏教授を招いて、高齢化が進展する中での福祉改革の重要性を説明いただき、種々懇談した。以下は、八代教授の説明の概要である。

  1. 「高齢者」の変化とその対応
  2. 「高齢者」は65歳以上と定義されているが、平均寿命が現在80歳位、2020年では82歳になるとの予測があり、昔の65歳と現在あるいは将来の65歳とは異なる。平均寿命の伸びに合わせて高齢者の定義を見直すことが必要であり、これにより高齢化に伴う国民負担は軽減される。また、高齢化が必ずしも健康水準が悪化することには繋がらず、国民負担の軽減のためには、健康年齢を高めるための予防に努めることも重要である。

  3. 福祉改革の方向
  4. 現在の福祉制度は、生活困窮者等非常に恵まれない人のための恩恵的事業としてスタートした。創設来約50年も経ったが、戦中・戦後の法制を引きずっており、政府がニーズを判定し、政府がサービスを提供する仕組みである。サービスを受ける人には選択の自由はない。
    今後は、貧しくはないが、また普段は何も助けが必要ではないが、寝たきりになると助けが必要になる人が増加することや、女性の就業拡大に伴い、働く家族のための保育所需要が増加することが確実であり、貧困者対策の福祉から、国民一般を対象とする福祉へ転換をしなければならない。
    また、従来から公務員により提供されてきた公的サービスは、効率的かつ多様なサービスの提供の観点から市場で代替されるべきである。

  5. 福祉サービスの質の向上
  6. 福祉は、儲けることを目的とする企業とは無関係であるとされてきた。しかし、不祥事の類は、公的か私的かを問わず発生しうるものであり、競争メカニズムを働かせることによって、不当なことを行なったり低質なサービスを提供する事業者は排除され、良質なサービスを提供する者が生き残るメカニズムが必要である。
    利益という考えを導入することには、利益の増大を目指して良質なサービスを提供する事業者の需要が拡大し、再投資によりさらに良質なサービスを提供する一方で、質の悪い事業者は淘汰されていく、というメリットがある。市場競争により、福祉サービスの質の向上がもたらされる。福祉サービスが、徹底したマニュアル化によるチェーン店方式で全国どこでも同質のサービスが提供されるための環境整備も大事である。


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