経団連くりっぷ No.74 (1998年3月12日)

貿易投資委員会WTOスタディ・グループ/2月12日

WTO紛争処理解決手続の現状と課題


1948年のGATT発効から今年で50周年を迎えた。こうしたなか、WTOスタディ・グループでは、本年5月の第2回WTO閣僚会議に向け、内外の有識者よりこれまでのGATT/WTO体制の評価と今後の課題をめぐりヒアリングを重ねるとともに、今後のWTOのあり方をめぐりわが国産業界の意見を取りまとめている。以下は、WTO紛争処理上級委員会委員を務める松下満雄成蹊大学教授の「紛争処理機能から見たWTOの課題」に関する説明概要である。

  1. 増加する紛争処理案件数
  2. WTO紛争処理手続で取り扱う案件数は、95年のWTO発足後年々増加しており、97年時点で100件を超えた。提訴案件数は米国(26件)、EU(10件)、カナダ(8件)の順に多い。日本は4件で貿易取引額からすれば大変少ないといえる。最近は、途上国が先進国を提訴するケースが増えている。また、分野別では知的所有権、アンチ・ダンピングに関する紛争案件が増加している。

  3. 紛争解決事例から見た課題
    1. 日本の酒税問題では、日本のウィスキーとブランデーに対する酒税が、焼酎よりはるかに高いことが問題となった。上級委員会は形式上の内外差別はなくとも、全体として外国製品を差別し内国民待遇に反する旨の結論を出し、日本が敗訴した。本件は、事実上の差別を問題視した重要な判例と思われる。

    2. 米国のガソリンの品質規制事件など、先進国の環境保護規制を発展途上国が訴えるケースも増えている。しかし、現在のGATT/WTO協定のみで環境に関する問題を扱うのは限界があり、環境に関する協定の策定が必要となっている。

    3. 日本の写真フィルム・印画紙事件等の競争政策に関する案件も重要である。WTOは、私企業の行為は紛争処理手続の対象外と見なしているが、米国は、日本政府が一企業の反競争的行為を黙認していること自体を不公正と見なしている。昨年、競争政策に関する作業部会がWTO内に設置されたが、WTO加盟国134カ国のうち約半数が独禁法を有していない状態で、競争政策に関する国際的ルールを策定することが可能か要検討である。

    4. 米国のヘルムズ・バートン法のような国家安全保障に係る案件も政治的色彩が強いため、WTO協定上の解釈が難しい。安全保障のための例外(GATT21条)の援用をどこまで認めるかが問題になるであろう。

  4. WTO紛争解決手続の改革の可能性
  5. 紛争案件は増加するとともに複雑化している。パネルの抜本的改革、上級委員の増員、WTO事務局の法律担当者の増員、乱訴防止のための勝訴側当事者の上訴禁止等、紛争処理手続のあり方を再考してくことが望まれる。


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