第553回常任理事会/3月3日
タイは、95、96年と対GDP比8%程度の膨大な経常収支赤字を抱えていた。国内経済の過熱がその要因である。しかし、95、96年の財政収支は黒字であり、放漫財政が原因とは言えない。一方、急激に流入した短期資金が不動産等の非貿易財に向けられていたことが特徴的であり、97年に入りこれらの資本が急激に流出したことを発端に危機に陥った。以上のように、経常収支の赤字自体は従来途上国によく見られる現象であったが、問題の本質は資本の動きにあった。
インドネシアは、95、96年と8%台の高いGDP成長率を記録し、消費者物価も他の途上国に比べ落ち着いていた。そのような中で昨秋にルピアが切下げを迫られることになった。当時は、ファンダメンタルズが強いので、危機は短期間で終息するというのが大方の見方だったが、現在では、回復はかなり遅れるとの観測が強まっている。昨秋以降の通貨下落率はアジアの他国と比べても非常に大きく、さまざまな問題が生じている。タイ以上に資金の動きが危機を増幅しており、その最大の原因は金融システムにある。
韓国も96年の経常収支赤字が対GDP比4.9%と大きいがタイほどではなく、経済力に対する信頼は高い。また、タイほど固定相場を頑なに維持しようとしてきたわけでもない。にもかかわらず、通貨が下落したのは短期資本の急激な流出のためであり、それが為替レート、さらには株、不動産等の資産価格の急落につながり、システム全体の危機を招来した。
タイの2月末の株価は昨年6月末の水準まで戻しており、IMFのプログラムの遵守状況を市場が好意的に評価している。韓国についても民間銀行との債務繰り延べ交渉が順調に進み、当面の危機は回避された。韓国経済に対する信頼は相対的に高く、危機に陥った国の中で最も早く回復するとの見方がある。他方、インドネシアは、経済の構造問題がクローズアップされるとともに、政治不安定等の経済外的要因も悪影響を及ぼしている。IMFのプログラムを実行する政治的意志に欠けるとの不信感が市場に強い。
昨年11月のマニラにおける日米アジア14カ国蔵相・中央銀行総裁代理会合において、「金融・通貨の安定に向けたアジア地域協力強化のための新フレームワーク」に合意した。同フレームワークは、
アジアの通貨情勢には欧米とも大きな関心を寄せている。先般開催された7カ国蔵相・中央銀行総裁会合(G7)でもアジア通貨情勢や将来の国際金融システムのあり方に関する議論に相当の時間を費やした。その結果、世界全体として対応を検討していくとのコンセンサスができつつあり、今後、建設的な議論が進められることになろう。