経団連くりっぷ No.75 (1998年3月26日)

第553回常任理事会/3月3日

アジアの通貨情勢等について
─原田大蔵省審議官より聞く


昨夏以降、アジア地域に広がった通貨・金融市場の混乱は、同地域のみならず世界経済に大きな影響を及ぼしている。そこで、常任理事会では、大蔵省の原田大臣官房審議官(国際金融局担当)よりアジアの通貨情勢等について聞いた。

  1. 原田審議官説明
    1. アジアの通貨情勢
      1. タイ、インドネシア、韓国の対ドルレートの推移
        昨年7月、タイバーツは事実上のドルペッグ制から管理フロート制へ移行し、これがアジア通貨危機の発端となった。バーツは昨年6月末から本年2月末までの間に対ドルで約40%下落した。インドネシアルピアは、特に昨年末から今年にかけて急落し、2月末時点で昨年6月末に比べ約70%下落した。韓国ウォンは昨年10月まで比較的安定していたが、11月に入り下落し始め、12月末までそれが続いた。年明けからは多少安定している。

      2. 通貨下落の要因
        タイは、95、96年と対GDP比8%程度の膨大な経常収支赤字を抱えていた。国内経済の過熱がその要因である。しかし、95、96年の財政収支は黒字であり、放漫財政が原因とは言えない。一方、急激に流入した短期資金が不動産等の非貿易財に向けられていたことが特徴的であり、97年に入りこれらの資本が急激に流出したことを発端に危機に陥った。以上のように、経常収支の赤字自体は従来途上国によく見られる現象であったが、問題の本質は資本の動きにあった。
        インドネシアは、95、96年と8%台の高いGDP成長率を記録し、消費者物価も他の途上国に比べ落ち着いていた。そのような中で昨秋にルピアが切下げを迫られることになった。当時は、ファンダメンタルズが強いので、危機は短期間で終息するというのが大方の見方だったが、現在では、回復はかなり遅れるとの観測が強まっている。昨秋以降の通貨下落率はアジアの他国と比べても非常に大きく、さまざまな問題が生じている。タイ以上に資金の動きが危機を増幅しており、その最大の原因は金融システムにある。
        韓国も96年の経常収支赤字が対GDP比4.9%と大きいがタイほどではなく、経済力に対する信頼は高い。また、タイほど固定相場を頑なに維持しようとしてきたわけでもない。にもかかわらず、通貨が下落したのは短期資本の急激な流出のためであり、それが為替レート、さらには株、不動産等の資産価格の急落につながり、システム全体の危機を招来した。

      3. 最近の情勢
        タイの2月末の株価は昨年6月末の水準まで戻しており、IMFのプログラムの遵守状況を市場が好意的に評価している。韓国についても民間銀行との債務繰り延べ交渉が順調に進み、当面の危機は回避された。韓国経済に対する信頼は相対的に高く、危機に陥った国の中で最も早く回復するとの見方がある。他方、インドネシアは、経済の構造問題がクローズアップされるとともに、政治不安定等の経済外的要因も悪影響を及ぼしている。IMFのプログラムを実行する政治的意志に欠けるとの不信感が市場に強い。

    2. 国際的な支援体制
      1. 通貨安定支援の現状
        タイに対しては、67億ドルを国際機関が支援し、この他に日本を中心とするアジア諸国が支援を行なう。インドネシアについては、国際機関が180億ドルを支援し、第2線準備として日、米、シンガポールその他が支援を行なう。韓国については、国際機関が350億ドルを支援し、第2線準備支援国として日、米、その他の先進国が決まっている。

      2. 新たな支援体制の構築
        昨年11月のマニラにおける日米アジア14カ国蔵相・中央銀行総裁代理会合において、「金融・通貨の安定に向けたアジア地域協力強化のための新フレームワーク」に合意した。同フレームワークは、
        1. 域内サーベイランス、
        2. 金融セクター強化のための技術協力、
        3. 金融危機へのIMFの対応能力の強化、
        4. アジア通貨安定のための協調支援アレンジメント(CFA)、
        の4つを柱とする。
        CFAは、IMFから独立したスキームを作るのはマイナスが大きいというコンセンサスを基に、IMFとの間で経済調整プログラムに合意した国に対して、IMFによる支援を前提に各国も支援を行なうというもので、その原型は対インドネシア支援に見られる。
        合意後に行なわれた韓国に対する支援では、この考え方が踏襲されている。

      3. G7の模様
        アジアの通貨情勢には欧米とも大きな関心を寄せている。先般開催された7カ国蔵相・中央銀行総裁会合(G7)でもアジア通貨情勢や将来の国際金融システムのあり方に関する議論に相当の時間を費やした。その結果、世界全体として対応を検討していくとのコンセンサスができつつあり、今後、建設的な議論が進められることになろう。

  2. 懇 談
  3. 経団連側:
    アジア通貨危機への対応に関して、日本の顔が見えないとの指摘がある。
    日本としても基本的な理念を明らかにする必要があるのではないか。
    原田審議官:
    今回の対応に関して、米国の利益が表に出て、日本がアジアの利益を十分主張していない、あるいは日本経済がしっかりしていればこれほどの危機にはならなかったとの指摘が一部にあるが、それは事実と異なる。日本はアジア経済の成長に寄与してきたし、今回の危機については、米国を含めた各国と協調して対応していくのが日本政府の役割であると考える。しかし、今後、アジアが危機から回復するために、日本経済にしっかりしてほしいという要望はきちんと受けとめていく必要があろう。

    経団連側:
    今回の危機の要因のひとつとしてドルペッグ制がある。中長期的に円の国際化を進める必要があるのではないか。
    原田審議官:
    日本としてはかなり以前から円の国際化の必要性を主張している。そのためには、円資産の調達・運用が効率的にできるような金融市場の整備を中心に考えていく必要がある。


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