欧州統合問題研究会(座長 糠沢専務理事)/2月27日
欧州統合問題研究会では、大谷良雄一橋大学法学部教授よりEUの構造について法的側面から説明を聞くとともに懇談した。
昨年6月の欧州首脳理事会においてアムステルダム条約が採択された。同条約は昨年10月に署名され、現在各加盟国が批准に向けた国内手続を進めている。批准されればマーストリヒト条約に代わる新たなEUの法的枠組となる。
従来から3共同体(ECSC,EC,EURATOM)に関する事項についてはそれぞれの設立条約上の規定が直接加盟国領域内の人・財物に適用され、紛争が生じた場合、各国の国内裁判所ではなく欧州共同体裁判所が管轄権を行使してきた。すなわち3共同体は独自の法人格を有し、加盟国の国家主権は制限されてきたということである(以下これを「欧州共同体法秩序」と称する)。
現行のマーストリヒト条約もこの点を踏襲した上で、以下の3点を基軸に構成されている。
EUは国家連合である。すなわち、欧州共同体法秩序の範疇に含まれない事項については完全に国家主権が維持されるという点で米国のような連邦国家ではない。他方、欧州共同体法秩序の範疇に含まれる事項については各国の国家主権が制限され、共同体法が域内の人・財物を直接拘束するという点で国連のような国際組織とも異なるといえる。
欧州共同体法秩序の範疇において共同体法が国内法に優位するということについては、共同体裁判所の判決を通じて確立している(1964年:コスタ対エネル事件、78年:シーメンタール事件など)。この点、フランス最高行政裁判所は長らく国家主権の優位性を主張してきたが、89年のニコル判決において共同体法の優位性を認めるに至った。
以上のように、EUは国家連合であるが、マーストリヒト条約が共通通貨政策の実施について言及し(B条第1段)、EU設立条約を改正して詳細な実施規定を盛り込んだ(G条25項)ことで、殊に経済的側面については連邦国家としての色彩が強まっているといえよう。
マーストリヒト条約は、加盟国の領域全体を同条約の適用範囲(共同体領域)としている(EC設立条約227条をそのまま適用)。
その上で共同体領域を国境のない地域とする旨定めている(マーストリヒト条約B条)。この趣旨を実現するべく現在独・仏・ベネルクス3国などがシェンゲン協定を締結、入国審査、税関検査の廃止をはじめ、人、モノ、資本、サービスの自由移動を保障している。アムステルダム条約はシェンゲン協定をそのまま取り込んでおり、同条約発効後はシェンゲン協定の条項が全加盟国を拘束することになる。
さらにマーストリヒト条約G条9項は、加盟国国民に対して欧州共同市民権を付与している。具体的には移動および居住の自由、共同体領域内における選挙権、欧州議会議員の選挙権、被選挙権、任意の加盟国による外交保護権を享受する権利、欧州議会への請願権、オンブズマン制度への請願権などが内容である。アムステルダム条約はマーストリヒト条約の規定を承継すると同時に、労働条件など社会権的基本権についても規定している。また、共同体領域内で活動する外国人・外国法人に対しても欧州議会への請願権、オンブズマン制度への請願権を認めている。
以上のように、欧州共同体法秩序の枠組内における国家間の結合が、領域、また、領域内の人・モノといった空間的側面からも強化されているといえる。
以上、EUの構造について法的側面から概観してきたが、上述の通り、法人格が認められているのは3共同体についてのみであり、EU自体が法人格を有するわけではない。
確かに、アムステルダム条約を起草する段階でEU自体に法人格を与える案も存在していた(アイルランド案・オランダ案など)。しかし、最終的には一部の有力国が自国の主権確保の観点から反対したため、実現しなかった。
また、法人格を有するということは必ずしも国家主権と同等の権能が与えられるということではない。すなわち、共同体領域における包括的・排他的支配権(imperium)は認められるものの、国境の変更、欧州共同体市民権の一方的付与などの処分権的側面(dominium)は認められないのである。