経団連くりっぷ No.75 (1998年3月26日)

わが国の国防上の課題と即応予備自衛官制度をめぐる懇談会(司会 糠沢専務理事)/2月27日

新たに導入される即応予備自衛官制度


経団連では、防衛庁の宝槻吉昭審議官と枡田一彦人事教育局第二課長を招き、わが国の国防上の課題と即応予備自衛官制度について説明を聞いた。即応予備自衛官制度は、冷戦後の安全保障環境に対応し、わが国防衛力の合理化・効率化・コンパクト化の推進の一環として、98年度より新たに導入されることとなった。以下は宝槻審議官の説明の概要である。

  1. 憲法とわが国の防衛政策
  2. わが国の基本的防衛政策は日本国憲法に基づいて作られており、文民統制、専守防衛、非核三原則、武器輸出三原則、軍事大国とならないこと等が特徴となっている。集団的自衛権については、国連憲章の下では権利として認められているが、憲法の制約から行使できないという理解がなされている。
    武器輸出三原則については、わが国がこのような政策を持つことにより、自衛隊の装備の価格が高くなるという影響が出ている。冷戦後、ロシアは性能でF15戦闘機に匹敵するようなスホイ27戦闘機を安価で輸出しており、日本はまったく価格面で競争はできない。自衛隊の装備品は国際的な平均からすれば2〜3倍の水準にあるが、それは日本が武器輸出をしないことに伴うコストである。日本はF15、F16戦闘機を輸入して外国に兵器を依存するという政策はとらず、ライセンス生産や国産の基盤を維持するつもりであり、その結果、装備が高価になることは承知している。
    一方、湾岸戦争の時、防毒マスクのような人道的な用途に使う装備を日本から購入したいという依頼があった。当時は、武器輸出三原則の解釈で防毒マスクは武器と解釈され輸出ができなかったが、その解釈も世の中の変化とともに変わって然るべきであろう。

  3. 中国軍の現状
  4. 先般、中国側と防衛対話を行ない、軍事費をめぐり意見交換を行なった。中国の軍事費は約90億ドルで、装備費、運営費、人件費がそれぞれ3分の1ずつとなっている。250万人の中国軍の人件費が30億ドルであるのに対し、日本の自衛隊は25万人を180億ドルで維持しており、1人当たりのコストでは約60倍の差がある。
    中国側は日本の軍事費が400億ドルを超えていることから日本は軍事大国化を志向していると批判しているが、軍事費をドル換算で比較することはあまり意味がない。
    中国の軍事費の伸びについては、かつて日本がとっていた軍事費はGDPの1%以内という制約を設けている。しかし、中国経済は10%以上で伸び出ており、中国の軍事費は伸び続けることになる。

  5. アジア経済危機と安全保障
  6. アジアの金融危機により、アジア諸国は軍事建設の見直しを迫られている。特に、韓国は深刻であり、今後の軍の近代化に影響が出よう。北朝鮮がこの弱体化をどう見るかが重要である。
    インドネシアでは、経済危機により軍建設の計画が破綻している。インドネシアでは、治安維持的な陸軍が今まで主体であったが、マラッカ海峡を中心としたシーレーンの防衛や南沙諸島における中国軍の動きに対応し、海軍を整備する予定であった。
    マレーシアやシンガポールに関しては経済危機は軍の近代化に大きな影響は及ぼしてはいない。今後、アジアの経済危機がこの地域の安全保障にどのような影響を与えていくのか注視していきたい。

  7. 即応予備自衛官制度の導入
  8. 日本の防衛力においては人件費が防衛費の43%を占めており、これが大きな問題となっている。人件費はベアの関係で毎年2%で増えていく。新防衛大綱では陸上自衛隊の編成定員を18万人から16万人の体制に移行することになり、その関係で即応予備自衛官制度が出てきた。
    16万人の内訳は、14万5,000人の常備自衛官と1万5,000人の即応予備自衛官となっている。即応予備自衛官制度の導入により、差引き5,000人分の常備自衛官の人件費を捻出でき、それを装備の近代化に回せるようになる。陸上自衛隊は従来の正面兵力による抑止力に加え、災害、PKOへの派遣のように多様な活動に対応できるよう機動性が求められており、装備の近代化によってそれに対応していこうということである。
    即応予備自衛官と従来の予備自衛官の違いは、後者が軽易な後方の業務に就くのに対し、前者は第一線の業務に対応することである。本年度は福岡の第四師団に約700名を採用する予定である。今後5年間で5,000名の規模とし、防衛大綱の期間中に1万5,000名としたい。
    即応予備自衛官は自衛官OBから採用することになり、任用期間は3年で更新もありうる。訓練招集は年間30日ある。処遇面では、即応予備自衛官手当が月16,000円、訓練招集手当が日額14,000円〜10,400円、勤続報奨金が一任期120,000円となっている。
    また、即応予備自衛官に登録したOB自衛官を抱える企業に対し、その負担への謝礼として企業給付金が1人当たり月額42,700円支給される。理想としては、近代民主主義国家の国防については、ボランティア精神を発揮してもらい、欧米の予備役のような職業をもちながらも国防に関与してもらうことが望ましい。企業の側で給付金はいらないという道もある。

  9. 日米防衛ガイドライン
  10. 新ガイドラインは、今後のアジアの平和と安定を睨み、日本として日米安保体制の持つ意義を再確認し、憲法との関係も踏まえ、周辺事態で何をなし得るかを検討したものである。
    中国の国防部長(国防大臣に相当)に新ガイドラインの説明をした際、中国側からは台湾を明示的に対象地域から外してもらえばありがたいとの話があったが、話としては理解してもらえたと思う。
    新ガイドラインについては、今後は国内法制の整備が重要であり、今期通常国会には法案を出したい。現在のままでは危機管理の仕組みとしては十分ではない。
    政府の課題としては、このような課題にしっかりと対応していくとともに、産業界と接点のある即応予備自衛官の雇用について企業のご理解をいただきたい。


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