経団連くりっぷ No.76 (1998年4月9日)

第12回評議員懇談会(座長 齋藤評議員会議長)/3月26日

当面の経済情勢、アジア通貨・金融危機への対応、
規制撤廃・緩和の推進について懇談


評議員約120名の出席を得て評議員懇談会を開催し、当面の経済情勢、アジア通貨・金融危機への対応、規制撤廃・緩和の推進に関する取組みを報告するとともに、懇談した。

  1. 齋藤評議員会議長挨拶
  2. 景気回復に向けて、政府には、税制改革の道筋の明確化、公共事業の前倒し、土地の流動化・有効利用の促進等を求めていく必要がある。アジア経済の安定のためにも、わが国経済を一刻も早く回復軌道に乗せ、健全さを取り戻すことが求められる。さらに、将来に対する不安感の払拭のためには、経済社会システムの抜本的改革が依然として重要な課題である。

  3. 豊田会長挨拶
  4. 各種対策により、最悪の事態は何とか回避できたのではないかと考えている。しかしながら、これまでの措置だけでは十分でない。わが国経済を一刻も早く本格的な回復軌道に乗せ、足腰のしっかりしたものにするためには、経済構造改革をも視野に入れた、思い切った内需拡大策が求められる。経済活動は生き物であり、その時々の経済情勢に応じて臨機応変に景気対策を打っていく必要がある。
    グローバル化や少子・高齢化に対応していくため、また、わが国経済ならびにそれを支える企業に対する内外の信頼を回復するため、改革を一層促進し、企業倫理の徹底に努めなければならない。

  5. 活動報告
    1. 当面の経済情勢と経団連の対応
      (前田副会長)
      1. 依然として経済実態は厳しく、内外から大規模な経済対策が必要との声が強まっている。また、98年度予算案が衆議院を通過し、補正予算を含めた経済対策の議論が本格化してきた。そこで、今般、追加経済対策について意見を取りまとめた。
        第1の柱は税制改革である。約7兆円の制度減税が必要である。個人所得課税について約4兆円の減税、法人課税についても、実効税率40%への引下げの道筋を明確化するなど約3兆円の減税が必要である。納税者番号制度の導入等も必要である。

      2. 第2は、切れ目ない公共事業の執行である。このため、公共事業費を80%程度、98年度上期に前倒し執行する必要がある。

      3. 第3は、土地の流動化・有効利用の促進である。住宅取得促進のための税制の改善などに加えて、金融機関の担保不動産やゼネコンが抱えている土地の流動化など多くの課題がある。

      4. 第4は、年金改革である。公的年金・企業年金を併せた抜本改革を国民に確約することが景気対策を実効あるものとするためにも必要である。

      5. 第5は、規制の撤廃・緩和と高コスト構造の是正である。新しい規制緩和推進計画をできる限り前倒し実施していく必要がある。また、エネルギーや物流、労務費など高コスト構造を是正していく必要がある。

    2. アジア通貨・金融危機への対応
      (立石アジア・大洋州地域委員会共同委員長)
      1. さる2月末から、私が座長を務めるアジア通貨・金融危機に関する特別検討会において、具体策を検討している。

      2. 現時点での基本的考え方は、3点に集約できる。第1は、アジア通貨・金融危機の克服に関しわが国が果たし得る最も基本的な役割は、一刻も早い国内景気の回復であり、それによってアジア諸国からの輸入を増やすことである。
        第2は、今回の危機克服の鍵は、当該国による経済構造改革にあるということである。わが国としては、構造改革に伴う痛みを和らげるような協力を行なうとともに、中長期的視点から、人材育成や裾野産業の育成に協力していくことが重要である。
        第3は、APECにおける自由化の流れを止めてはならないということである。特に、ASEAN諸国が結束を強化し、AICO(ASEAN産業協力計画)の拡大やAFTA(ASEAN自由貿易地域)の実現などに引き続き取り組んでいくことが重要である。わが国としては、円の国際化等を通じて決済通貨としての円の役割を高めることも重要である。

    3. 規制撤廃・緩和の推進
      (内田事務総長)
      1. 95年3月に決定された規制緩和推進計画の下で規制緩和は大きく前進した。一方、規制緩和措置の活用も進んでいる。

      2. ところが、昨年4月以降、こうした流れに陰りが見え始めた。そこで、経団連では、新しい計画の策定と行革委員会に続く第三者機関の設置を要望してきた。その結果、昨年末に新しい規制緩和推進3カ年計画の策定が決定され、これを取りまとめるため、政府の行革推進本部の下に規制緩和委員会が設置された。同委員会で取りまとめた新計画は近く閣議決定されるが、その概要を見ると、行革委員会の最終意見の趣旨はほぼ盛り込まれている。また、行革会議が提案した規制行政に係るパブリック・コメント制度が盛り込まれたことも評価できる。

      3. 経済に活力を取り戻すため、なお一段の規制緩和が求められており、経団連としては、行革委員会が最終意見で提言した強力な第三者機関の設立を含めて計画の拡充を働きかけていきたい。

  6. 評議員から出された意見
  7. 日本ユニシス 天野社長:
    経済の現状に自信を喪失することなく、将来わが国が進むべき方向を明確にした上で、魅力ある個人を育成していかなければならない。

    アスク 藤田社長:
    将来に対する不安が消費にも影響している。この点、社会保障制度全般について将来像を明確にする必要がある。

    興和不動産 吉田社長:
    個人消費を盛り上げるため、ぜひとも所得税減税が必要である。

    東洋エンジニアリング 上床相談役:
    アジア通貨・金融危機の複合的な要因について、きちんと分析しておく必要がある。また、貿易保険の運用の弾力化が望まれる。さらに、この機会に円の国際化、アジアでの基軸通貨化を進めてほしい。

    山武ハネウエル 井戸社長:
    公共工事の入札、海外におけるソフトウェアの開発・生産に係る規制等の緩和をお願いしたい。


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