経団連くりっぷ No.76 (1998年4月9日)

在京ASEAN大使との懇談会/3月12日

アジア通貨危機の克服に向けて


ASEAN(東南アジア諸国連合)各国は、通貨危機がさらに深刻化することを深く懸念している。経団連では在京ASEAN各国大使からの要請を受けて、各国経済の現状と今後の見通しについて意見交換を行なった。

  1. ウィスバー・ルイス駐日インドネシア大使によるASEAN概要説明
  2. ASEANは1967年8月に設立されてから、加盟各国の努力により、目覚しい発展を遂げてきた。現在ASEANが直面している通貨・金融危機についても、相互の協力によって克服していきたいと考えている。相互協力の必要性については、97年12月16日にクアラルンプールで開催されたASEAN首脳会議においても強調された。この機会に、中国の江沢民国家主席、韓国の高建首相、橋本首相もマレーシアを訪問し、ASEAN各国首脳と会談した。
    98年2月28日には、ASEAN蔵相会議がジャカルタで開催され、通貨危機に対する安定化策が協議された。ASEAN地域では資本逃避が進んでいる。金融・資本市場に対する信任の回復が重要である。域内の銀行が発行するL/C(信用状)を多国間で保証する枠組も提案された。
    ASEANからの日本への輸出を拡大させるためには、日本の景気が一刻も早く回復することが求められる。

  3. ASEAN各国の現状と課題
    1. インドネシア(ウィスバー・ルイス大使)
    2. インドネシア政府はIMFのコンディショナリティーを実行すべく努力しているが、実体経済には回復の兆しが見られない。通貨が安定すれば企業活動は正常に戻り、債務問題は解決され、資本逃避も減少するだろう。経済構造改革の進め方について、インドネシア政府とIMFとの間で考え方に相違があったことから、3月6日、IMFは3月中旬に実施予定であった第2次融資(30億ドル)を4月以降に延期した。今後、インドネシア経済がさらに悪化する可能性もある。またIMFのコンディショナリティーの中で憲法に抵触するおそれのある項目については、慎重に対応する必要がある。

    3. マレーシア(H.M.カティブ大使)
    4. マレーシアの通貨リンギも米ドルとの関係において価値を下げており、株式市場も不安定な動きを示している。そのような中にあっても、マレーシアの銀行は健全な経営を続けている。最近、マレーシアの中央銀行は、民間銀行の吸収合併を進めてきたが、現下の経済情勢を受けて、さらなる吸収合併を進める予定である。

    5. ラオス(トーンサーイ・ポーティサーン大使)
    6. メコン河流域開発は、アジア開発銀行の支援を受けて進められている。92年に90を上回る優先的なプロジェクトが策定されており、輸送、エネルギー、貿易、観光など多岐の分野にわたる。この中には、シンガポール、マレーシア、ラオス、タイを通過するアジア横断鉄道も含まれる。経済情勢の急変を受けて、これらのプロジェクトの中には延期されるものもあろう。インドシナ開発に対する日本政府の支援を期待する。

    7. ミャンマー(ソー・ウイン大使)
    8. ミャンマーは89年に現政権に代わってから、近隣諸国との貿易・投資を拡大して発展してきたが、通貨危機の発生後は外貨の流入が減っている。このような状況下、ミャンマー政府は必要な規制を行なっている。海外からの輸入は、1カ月5万ドルを上限とし、すべての貿易取引は指定銀行で決済される。

    9. シンガポール(チュー・タイ・スー大使)
    10. 今回、危機に直面した国に対してシンガポールはさまざまな支援を講じている。IMFを通じてタイには10億ドル、インドネシアには50億ドルの支援を表明している。シンガポール・ドルは米ドルに対して危機発生後16%下落しており、今後1〜2年は金融市場の成長は鈍化するだろう。一方、シンガポールの銀行は自己資本比率が高く健全であり、今回の危機を通じてその強みを発揮したとも言える。東南アジアの企業に対して、資本調達の面で役立つものと期待している。

    11. タイ(シャワッツ・アッタユック大使)
    12. タイは、IMF改革プランを97年8月以降実施している。ここ数カ月、バーツは1ドル=43バーツ前後で推移している。景気は98年第3四半期に底を打ち、その後は回復に向かうだろう。今回の通貨危機では、約2万人の中所得者層サラリーマンが職を失い、失業者数は180万人に達する可能性がある。金融セクターの信任を回復させるため、銀行のリストラも行なっている。また税収入も減少が予想されることから、電力、電話、石油などの分野において、国営企業の民営化を進めることになろう。

    13. ベトナム(グエン・クオック・ズン大使)
    14. ベトナムでは、ドイモイ(刷新)政策を進めており、
      1. ベトナム経済の競争力向上、
      2. 農村地域の開発、
      3. 国営企業の改革、
      4. 金融・通貨制度の整備、
      5. 社会的な平等の確保、
      6. 行政の透明性の向上、
      などに取り組んでいる。輸出を拡大し、貿易赤字の削減に努めている。特定品目の輸入を制限し、輸出業者間での過当競争が起きないように注意している。ベトナム政府としては、国際社会の一員として世界各国からの信用を得るため、APEC、WTOなど国際的な枠組に参加したいと考えている。

    15. フィリピン(ヘスス・ヤベス公使)
    16. 通貨危機発生後、ペソは米ドルに対して約3割下落した。他方、97年の実質GDP成長率は5.7%となり、IMFの経済見通しを上回った。さらに97年の消費者物価上昇率は5.1%で、96年の8.1%を下回った。銀行の経営に対しては監視を強化しており、中央銀行が保有する外貨準備を増やすため、IMFとの話し合いを進めている。


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