経団連くりっぷ No.76 (1998年4月9日)

首都機能移転推進委員会(委員長 河野俊二氏)/2月20日

首都機能移転の経緯、意義・効果と
国会等移転審議会の審議状況


1月16日の国会等移転審議会において、3地域の調査対象地域が設定され、首都機能移転は移転先候補地の選定に向け新たな段階を迎えた。そこで、首都機能移転の経緯、意義・効果と国会等移転審議会の審議状況について、林桂一国土庁大都市圏整備局長と大森雅夫同局首都機能移転企画課長から説明を聞いた。

  1. 林局長説明要旨
    1. 首都機能移転をめぐる議論には歴史がある。昭和30年代に学者・研究機関等からすでに提言が出されている。
      1990年11月に衆参両院において「国会等の移転に関する決議」が採択され、これを契機に首都機能移転に関する議論が盛り上がった。91年8月には、衆参両院に「国会等の移転に関する特別委員会」が設置され、翌年の92年12月には「国会等の移転に関する法律」が制定、施行された。同法律に基づいて「国会等移転調査会」が設置された。
      調査会は2年余りにわたり移転の意義・効果、移転先の選定基準等の諸問題を検討し、95年12月に報告をとりまとめた。 96年に国会等の移転に関する法律を一部改正し、国会等の移転先候補地の選定等について調査審議を行なう「国会等移転審議会」を設置した。審議会はこれまで9回の会議を開催し、本年1月16日の会合で調査対象地域の設定を行ない、第1タームの審議を終えたところである。
      審議会の審議は第2タームの属地的調査(地域ごとの詳細調査)と現地調査に進む。第2タームを経て、最終段階の第3タームでは、国民合意形成の状況、社会経済情勢の諸事情、東京都との比較考量の検討を行ないつつ、各地域の相互比較の総合評価を行ない、来年秋ごろを作業上の目途として候補地の答申を行なうことができるよう、精力的に審議を行なうこととしている。

    2. この間、昨年6月3日の財政構造改革に関する閣議決定では、首都機能移転問題は「総合的に勘案して慎重な検討を行なうことを提起する」とされた。これを受けて、同年6月6日の閣議において国土庁長官から「財政構造改革期間(1998〜2003年度)は原則として新都市の建設事業に対する財政資金の投入は行なわないこととし、移転先候補地の選定等必要な検討を引き続き進めることとする」と発言し、了承を得た。これにより、調査会報告では「世紀を画する年」としていた建設着工の時期は、原則として2004年度以降とすることとなった。

    3. 首都機能移転の実現には国民的な合意形成が必要である。97年の総理府の世論調査では、首都機能移転に対する国民の周知度は75.7%であり、また首都機能移転に対して賛成が54.5%、反対が21.0%と、過半数の賛同を得ている。首都機能移転への賛成理由としては、東京の土地、住宅、交通問題の解決につながる、全国各地域の自立性が高まる、地震などの大規模災害に備える必要がある等が挙げられ、他方、反対理由では、費用に見合った効果が期待できない、東京の土地問題等の解決につながらない、政治、行政、経済の中心は一体となっている方が効率的、などが挙げられている。
      国土庁が96年にパソコン通信で行なった調査でも、首都機能移転に対する賛成は83.6%に達している。

    4. 首都機能移転によって期待される主な効果として、以下の3つが挙げられる。
      第1に、国政全般の改革の促進である。首都機能移転は、内発的な改革の原動力となるとともに、物理的な政経分離を通じた政・官・民の新たな関係の構築、政策立案の視点の変化等により、国政全般の改革を促進する。
      第2に、国土の災害対応力の強化である。大地震に対する政治・行政と経済のヘッドクォーターの同時被災の回避や移転跡地の活用による東京の防災性の向上等により、国土の災害対応力が強化される。
      第3に、東京一極集中の是正である。「集中が集中を呼ぶメカニズム」の打破、東京中心の社会構造および国土構造の変革、東京の過密軽減への直接的寄与により、東京一極集中が是正される。
      そのほか、新都市づくりが「環境共生型の都市づくり」や「先導的情報都市」として次世代の都市開発のモデルとなるよう、種々の研究・技術開発が促されるといった効果なども期待される。

  2. 大森課長説明要旨
    1. 本年1月16日の国会等移転審議会において、調査対象地域として、北東地域、中央地域(東海地域、三重・畿央地域)が設定された。
      第1タームにおいて、国会等移転調査会報告の移転先地の選定基準の確認と整理を行なった。調査会報告で示された9つの選定基準を「移転先の位置の条件」と「移転先の新都市の開発可能性に係る条件」に分け、それぞれ定量的・客観的な条件を設定して、誘致を表明している地域をも含め16地域を検討対象とし、さらに地域の絞り込みを行なった。現段階ではより広い地域を対象にして調査した方がよいとの考えから、今回設定された調査対象地域は複数府県にまたがる相当の広がりをもつこととなった。
      第2タームにおいては、地域の全般的特性に係わる調査を行なった後、即地的な詳細調査と自然的環境等への影響に関する調査を行なう。こうした調査と並行して、首都機能都市としての理念とわが国に与える影響等に関して審議する予定である。
      調査対象地域を設定するに当たり、地価高騰の未然防止の観点から、調査対象地域等における土地取引規制を一層的確かつ機動的に運用するよう、去る1月16日、国土庁から関係府県に通知を発出した。

    2. 審議会で移転費用のモデル的試算を行なったところ、建設開始後約10年間の費用総額は4兆円、このうち公的負担は2兆3,000億円との結果を得た。総費用に関しては、行政改革の議論を踏まえ、(1)行政機関が2分の1移転するケース7.5億円(公的負担3兆円、民間投資・負担4.5億円)と、(2)すべてが移転するケース12.3兆円(公的負担4.4兆円、民間投資・負担7.9兆円)の2つを試算した。
      このほか、調査部会の下にワーキング・グループを設け、調査会報告における「新都市のイメージや都市形態」等をもとに具体的な新都市像のイメージを検討しているところである。


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