経団連くりっぷ No.76 (1998年4月9日)

農政部会(部会長 山崎誠三氏)/3月17日

今後の米政策のあり方について聞く


政府の食料・農業・農村基本問題調査会における検討に対応して、農政部会では、昨年9月にとりまとめた経団連意見「農業基本法の見直しに関する提言」をもとに、今後具体的な課題についてさらに検討を深めていくことにしている。その一環として、日本農業研究所研究員の佐伯尚美氏を招き、今後の米政策のあり方について説明を聞くとともに意見交換を行なった。なお当日は、農業企業経営の実践プロジェクトを企画している、ヒューマン・ルネッサンス・コーポレーションの成田社長からプロジェクトの構想等について説明を聞いた。

  1. 今後の米政策のあり方について ─農業基本法の見直しを見据えて
  2. 佐伯 日本農業研究所研究員説明要旨

    1. 農業基本法の見直しについて
      現行の農業基本法が具体的な農業政策を規律できなかったという反省に基づき、今回の農業基本法の見直しに関する検討では、新基本法の内容よりも、むしろ、農地法や農協法、土地改良法等の個別法と新基本法との関係づけを議論することが重要である。
      また、従来の農政の枠組みから脱皮して、(1)分権化(地域政策、構造政策等における地方の自主性の発揮)や(2)省際化(縦割行政の是正、地方段階での政策運営の総合化)、(3)「透明化」(国民にわかりやすい農政)を推進することが重要であり、それを新基本法のなかに位置づけるべきである。

    2. 第三次米過剰と「新たな米政策」について
      計画流通米持越在庫量は、昨年10月末で391万トンにのぼり、食糧法施行後2年間で、適正在庫水準に比べて約200万トンの余剰が生じた。今回の米過剰は、1970年、80年に次ぐ、第三次米過剰と言われている。
      米過剰となった要因は、4年連続の豊作という天候の要因もあったが、その影響はせいぜい半分程度で、残りは食糧法の内部的・構造的な欠陥要因によるものである。具体的には、(1)当初予定していた農協主体の需給調整メカニズムが機能しなかったこと(過剰分は農協が調整保管し、その分に相当する面積を翌年の生産調整面積に上乗せすることになっていたにもかかわらず、昨年度の生産調整面積は据え置かれた)、(2)流通規制が緩やかで価格の安い計画外流通米に需要がシフトし、計画流通米の売れ行きが振るわなかったことなどである。
      第三次米過剰は、前2回の米過剰とは次の2点で異なっている。第1に、厳しい財政制約の下で、過剰米を主食用として処理する方針であること、第2に、旧食管法の下のような政府米価が存在しないことから、米価が大幅に下落し(8年産米と9年産米を比較して約13%下落)、農家に「米価ショック」を与えたことである。特に大規模農家が米価ショックの打撃を受けた。

    3. 「新たな米政策」の特徴
      第三次米過剰ならびに米価ショックを受けて、食糧法は発足後2年で再編成せざるをえなくなり、農林水産省は昨年11月、「新たな米政策」を打ち出した。
      「新たな米政策」は、米の需給調整や価格の調整を農協を中心に全国規模で行なおうとするもので、主に以下の3つの政策からなっている。つまり、
      1. 価格の低下を補填する「稲作経営安定基金」、
      2. 生産調整の地域的なアンバランスの是正を図る「米需給安定対策資金」、
      3. 過剰在庫の損失補填を図る「米需給調整基金」、
      である。
      これらの政策は、これまで地域ごとに行なわれてきた「とも補償」が、一定の財政支援を受けて全国化・全面化されたものと位置づけられよう。なかでも稲作経営安定基金は、価格低下の8割を生産者拠出金と政府拠出金により補填するもので、農協が米について、市場における価格形成を認めた点で画期的な意味を持つ。

    4. 評価と課題
      マスコミは、新たな米政策について、一種のデカップリング(価格政策と所得政策の分離)であるとして概ね評価している。当初反対が強かった農家も、米価ショック後は、やむをえないという雰囲気に変わってきている。しかし、生産調整強化に対する不信感は強く、今後、生産調整の拡大に協力しない農家が大規模農家を中心に出てくることが予想される。
      今回の米対策は、全般的な米政策に係る改革の第一歩であり、引き続き改革を図っていく必要がある。過剰米処理や統一的な価格形成の問題、備蓄と調整保管との位置づけの見直し、計画流通制度の見直しなど、今後、解決すべき課題は山積している。
      特に過剰米処理問題は深刻である。政府は今後2年間で政府備蓄を400万トンから200万トンに減らすとしているが、政府の計画は現実味が薄い。古米を1年間で約100万トン販売するというが、可能とは考え難い。
      また生産調整が強化されることもあり、来年度は新米が極端に不足し、古米は過剰になると見込まれる。その場合、新米と古米の価格差が急速に拡大するが、全体の米の流れにどう影響するのか、懸念される。

    5. 経団連側意見
      1. 新たな米政策により、北海道では米を作るよりも作らない方が収入が多いという試算が出ており、大規模農家を中心に米を作らないという動きが出始めてる。このまま生産調整が強化されると、新米価格が高騰するとの見方もある。
      2. 食糧庁をはじめ、米に係る行政組織、関係団体には膨大な人が働いている。米政策の合理化を進めていく上で、これらの組織に係る人員のスリム化を図る必要がある。

  3. 農業企業経営の実践プロジェクトについて
  4. 成田 ヒューマン・ルネッサンス・コーポレーション社長説明要旨

    当社では、企業が持つ技術やノウハウを農業に活かすことによって、高品質な農産物を生産するとともに、加工、流通、販売を包括する総合的な農業を提案し、農業の新しい価値を創造したいと考え、農業者とも協力しながら、そのための事業を行なう株式会社を設立した。その具体的なプロジェクトとして、北海道に、コンピュータ制御された大規模ガラスハウスを建設し、トマト・ピーマン等の高品質野菜を栽培する事業を行なう。本プロジェクトは、減反農地の再利用といった農業の活性化に役立つだけでなく、過疎の抑制や環境保全にも資する。現在、資金や技術面などさまざまな形で本事業にご協力をいただける企業を募っている。


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