経団連くりっぷ No.76 (1998年4月9日)

滝口東京女子医科大学講師との懇談会(司会 永松産業本部長)/3月5日

レセプト点検の充実が健康保険組合の機能強化の鍵
─滝口東京女子医科大学講師から説明を聞く


増加を続ける国民医療費の抑制の見地から、健康保険組合によるレセプト審査機能の強化が不可欠となっており、レセプト点検ビジネスへの関心も高まっている。そこで、3月5日、レセプトの点検・内容審査等のあり方につき、東京女子医科大学の滝口進講師より説明を聞くとともに、種々懇談した。

  1. 医療費請求・支払システムの問題点
    1. 健康保険法では、医療費の支払いについて、保険者が審査の上これを行なうこととされているが、昭和23年の厚生省の局長通達に従い、健康保険組合連合会が特殊法人である社会保険診療報酬支払基金(以下、支払基金)と契約を結び、レセプトの点検・審査事務と診療報酬の医療機関等への支払事務を、支払基金に一括して委託している。そのため、保険者たる個々の健康保険組合の自主性が弱い。

    2. 支払基金の機能は効率が良いとは言い難い。支払機能については、情報通信技術の発達や銀行のオンライン化の進展等に伴い、支払基金が仲立ちをする意味が薄れている。
      また、支払基金の審査機能にも問題がある。医療機関からの請求内容について支払基金が指摘したものは、95年度では約280億円に過ぎなかったが、レセプトの請求内容の点検代行を業とする民間企業等の協力を得るなどして健康保険組合が、レセプトの再審査を請求して認められたものは約660億円にのぼった。

    3. 支払基金の一次審査基準が都道府県によってバラバラであるために、再審査を請求したレセプトの4割を認める県もあれば、1割も認めない県もあり、格差が大きく公平性を著しく欠いている。

  2. レセプト点検による医療費支払いの削減効果
  3. 97年に支払基金は、各健康保険組合からレセプト1枚当り審査費用として56円30銭を徴収しているが、一次審査では、一枚当り約40円の査定を行なっていると推計され、逆ザヤになっている。これに対して、内容審査を一枚当り約40円で民間企業に代行してもらった結果を基に、再審査を請求すると、これにより一枚当り約90円くらいの査定を受けることができている。仮に毎月10万枚のレセプトが発生する健康保険組合の場合、1カ月に500万円近くの医療費が実際に削減されることになる。

  4. 保険者機能の強化
    1. これまで、健康保険組合は国の末端機関の色彩が濃かったが、最近、健康保険組合の自主性を高めて、その機能強化を図る動きが出てきている。

    2. 今後は第1に、健康保険組合の組織の強化が必要である。組合員の意見や状況を踏まえて、改善策を企画・立案し、行政と交渉を進めなければならない。そのためには、母体企業は、健康保険組合に人的資源をもっと投入すべきである。

    3. 第2に、情報武装化が必要である。現在は診療情報の収集・解析がほとんどできていない。例えば、疾病別の支払額やその時系列での傾向などが把握されていない。
      そこで、健康保険組合は、支払者である立場から、レセプトの記載項目や出力形式に関して、積極的に提案することが必要である。

    4. 制度面においても、従来のレセプト審査システムを見直し、最終的な審査を支払基金が行なうことを前提に、健康保険組合自らもレセプトの点検を行なうようにすべきである。その際、支払基金の事務処理の順番について、一次審査後に個別の健康保険組合別の仕訳けを行なうという現在のやり方を改め、まずレセプトを個別の健康保険組合別に仕訳ける必要がある。

    5. また、事務処理コストを削減するとともに、診療情報の効率的な収集・分析を行なうために、現在は紙以外は認められていないレセプトを、電子データ化したデジタルレセプトへ切り替えることも大事である。 保険者は、レセプトの記載事項を利用して、医療行為のプロトコルやスタンダードの構築を促すとともに、医療のパフォーマンスの評価を行ない、これらを実際に各種保険プランの策定や健康保持増進システムの研究開発など被保険者の健康管理、疾病指導に活用して、総合的な医療サービスの向上に繋げなければならない。
      これにより、21世紀の日本の医療の構造が、日本が持っている優れた公的医療保険の基盤を残した形で、新しい制度への脱皮が可能となるであろう。

現在のレセプト診療報酬の流れ
くりっぷ No.76 目次日本語のホームページ