経団連くりっぷ No.77 (1998年4月23日)

情報通信委員会(委員長 藤井義弘氏)/4月10日

情報ネットワークの活用で価値創造を
−國領慶應義塾大学大学院助教授から説明を聞く


情報通信委員会では、企業経営における情報通信の活用方策について、慶應義塾大学大学院経営管理研究科の國領二郎助教授を招き、種々懇談した。以下は説明の概要である。なお、当日は「自由・公正・透明な情報通信市場の実現に向けた提言(案)」ならびに「公的分野の情報化促進に関する提言(案)」について審議し、了承した。

  1. 価値創造のシステムへの転換
  2. 企業は、エクストラネットなどを活用して、特定企業と戦略提携を進めたり、電子市場を通じて不特定な相手との取引きを行なっている。人を代替する機械によって合理性・効率性を追求した従来型のシステムから、人と人との知恵が結合して創造的活動をもたらす価値創造型のシステムへの転換が始まっている。異質で多様な人の知恵が、デジタル空間の中の共通なプラットフォームの上で結合し、1+1が3にも5にも増大する、知識の収穫逓増という現象が生じている。

  3. 供給連鎖の再編
    1. 企業間取引においては、スピードと創造性のある経営を目指して、囲い込み型からプラットフォーム型へ移行しつつある。例えば、メインフレームのコンピュータの時代には、OS、CPU、販売網等は自社専用であり、カスタム品を供給することで顧客を離さないようにする「一部の顧客の付加価値を全部獲得する」という囲い込みのスタイルであった。ところが、最近では、インターフェースをオープン化し、例えばCPUをすべての市場を対象に供給する「全部の顧客の付加価値を一部獲得する」型のプラットフォーム化の戦略をとる企業の競争力が高い傾向にある。

    2. 従来日本での情報共有は、相手の知恵を汲み上げることに長けてはいたが、あうんの呼吸や暗黙知を通じた文脈共有という形であり、普遍性に欠けていた。一方、米国では、高度な情報技術を活用して、異文化に属する人々の間で、普遍性のある情報の共有化を可能とし、優位性を高めてきている。これは、今後日本が目指すべき方向を示唆している。

  4. 電子市場の特徴
    1. 企業・消費者間取引において、広報、取引処理、配送、決済の手段としてネットワークが活用される、電子市場という巨大な流通空間が出現している。現実空間と異なり、コストが距離に連動しない。例えば、ある消費者に在米の銀行、在日の銀行がアクセスする各々のコストは同等である。商圏の定義も変わっていこう。

    2. ネットワークは、企業・消費者間だけでなく、消費者間コミュニケーションも円滑にする。あるパソコン通信上での消費者間のQ&Aを、業者のヘルプデスクですべて対応すると仮定した2年前の試算では、付加価値の創出が20億円に達していた。従来の常識では考えられないことが起きている。


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