経団連くりっぷ No.78 (1998年5月14日)

なびげーたー

東アジアの通貨・金融危機と日中関係

国際本部長 島本明憲


中国は、昨年9月、今後5年間の党の体制を決め、本年3月、朱鎔基内閣を発足させた。江沢民主席の来日までに、日本も日中関係の将来像を固めたい。

  1. 日本の今日の最重要な課題は、国際的な視点から見ても、景気回復・内需拡大である。無論、内需拡大は輸入拡大に繋がらなければならない。
    年初から米国は、これまで改善に向かっていた日米間の経常収支が再び悪化していると懸念を示し、また通貨危機下の東アジア各国の輸出圧力が米国のみに向かわぬよう日本も吸収してほしいと伝えてきた。
    実際、米国側の予想は的中した。米国の統計(1月から2月)では、米国のタイ、インドネシア、韓国向けの輸出は大幅に落ち込み、他方これらの国も含めてアジア各国の米国への輸出はおしなべて増加している。日本の統計(1月から3月)では、日本のアジア向け輸出は台湾および中国を除き、軒並み大幅減少で、輸入の方も減少しているが、その程度は輸出よりも少ないのがせめての救いである。日本と米国とで大きく異なる点は、アジアからの輸入において米国は増加、日本は減少と対称的な点である。

  2. 景気回復・内需拡大は、米国側のみの期待ではなく、日本の国民、経済界が等しく期待していることである。とくに強調したいことは、内需拡大による輸入拡大が遅れると、日本の国益、すなわち東アジア各国において、日本がこれまでODAあるいは民間投資で培ってきた信頼を失いかねない点である。また、そうであれば欧米も日本頼むに足らずとみるであろう。そして、日本が円の国際化をはじめ、何かを東アジアの各国に提案しても、東アジア各国はにわかには賛成しないであろう。これでは日本の前途に楽しみがない。

  3. 4月下旬、経団連が主催して開かれた第3回アジア隣人会議において、台湾の代表は東アジアの通貨危機にかんし、台湾は中国と手を携えて協力する用意があると述べ、関心をひいた。台湾は政治、経済の実績に自信を持っているが、通貨危機の大きさからみて台湾だけでは対処できず、中国との協調も視野に入れている。台湾が中国とどのような関係になろうとしているのか、察するより仕方のないことであるが、台湾の行き方は日本にとっても参考になる。

  4. 中国のプレゼンスは東アジアを超え、大きい。日中はお互いに相手を1、2位とする貿易相手国である。来る9月に江沢民主席が訪日する。これに先立つ6月には米国のクリントン大統領が訪中し、1,000人のビジネスマンが同行するという。日中関係を考える場合、両国間の貿易、投資および経済協力の他、東アジアを念頭においた日米中の協力という視点も必要である。さらに、ロシア、とくにシベリア開発あるいは中央アジアにおける石油・天然ガスパイプラインとの関連において日中関係を捉えることも内容を豊かにする可能性がある。


くりっぷ No.78 目次日本語のホームページ