経団連くりっぷ No.78 (1998年5月14日)

アメリカ委員会(委員長 槇原 稔氏)/4月21日

日米双方の利益となる分野で協力を強化する


在日米国大使館のラフルアー首席公使、グリーンウッド経済担当公使、ドーナー財務担当アタッシェを招き、バーミンガム・サミットに併せて開催される日米首脳会談に向けた米国側関心事項や、現在の日米関係について、説明を聞くとともに、意見交換を行なった。

  1. ラフルアー首席公使発言要旨
    1. 変わらない日米関係の重要性
    2. マンスフィールド前駐日大使は、かつて「日米関係は最も重要な二国間関係」だと述べたが、その言葉は現在もあてはまる。強力で安定した日米関係は、日米双方の利益である。
      第1に、安全保障上の役割がある。日米安保条約は、米国の対アジア太平洋戦略の要であり、その重要性は冷戦後も変わらない。もちろん、沖縄の代替基地問題など課題もあるが、日米は「日米防衛協力のためのガイドライン」に基づき、共通の防衛上の課題に取り組むことに合意している。その他、両国は協力して、大量破壊兵器保有に関する国連の特別査察を受け入れるようイラクの説得にあたるなど、国際的安全保障維持の面でも協調している。
      第2に、経済面でも両国関係は重要である。日本は、米国にとって、カナダ、メキシコにつぐ第3の貿易相手国であり、北米自由貿易地域以外では、第1の貿易相手国である。
      さらに、日米は、カンボジアにおける自由選挙の実施、中東和平、朝鮮半島問題や、環境、麻薬、犯罪など国境を超える問題の解決においても協力している。

    3. 適切なマクロ経済政策に対する意見
    4. 現在、米国が日本のマクロ経済政策について意見を述べているのは、その背景に日米関係が良好で、両国政府が率直な意見交換をできる関係にあることが指摘される。また、適切なマクロ経済政策についてG7諸国がお互いに意見を述べ合うのは新しいことではない。1970年代後半に当時のカーター大統領は他の先進諸国に対し、世界経済の「成長のエンジン」としての役割を求めたし、80年代には、米国が双子の赤字を解消するために取るべき政策について、他のG7諸国が意見を述べている。

    5. 日米首脳会談における米国側関心事項
    6. バーミンガム・サミットに併せて日米首脳会談が開催されるが、その際の経済面での米国側関心事項は、まず、日本の適切な財政政策である。日本政府は、総額16兆円を上回る総合経済対策や減税策を発表しているが、これを早期に実施し内需拡大による景気回復に努めることが重要である。
      第2に、金融システム改革である。すでに日本は不良債権処理に向けて幾つかの措置を実施しているが、世界の金融システム安定化のためにも改革を着実に進めてほしい。
      第3には、対前月比で21%増となっている米国の対日貿易赤字である。これらの課題について日本は、長期的観点から、構造改革に取り組んでほしい。
      第4に、昨年のデンバー・サミットで合意した「規制緩和および競争政策に関する強化されたイニシアチブ」がある。これについては、昨年11月にバンクーバーで行なわれた日米首脳会談で、両国はバーミンガム・サミットまでに、イニシアチブの下での具体的な進展を示すことに合意している。米国は日本政府がなるべく包括的な規制緩和パッケージをまとめることを期待しており、特に重視しているのは、電気通信、医療機器・医薬品、流通、法律業務、木材製品等の分野である。

    7. 日米双方の利益となる分野での協力
    8. クリントン政権下で、日米間には多数の貿易、サービス協定が締結されたが、中でも今年1月に合意した日米民間航空協定は、今後のモデルとなる。航空協定の場合のように、日米はこれから、両国の利害が対立する分野ではなく、双方が利益を見出せる分野で協力を進めていくことが重要である。

  2. 意見交換
  3. 経団連側:
    バーミンガム・サミットで、日米が協力できる分野は何か。
    ラフルアー公使:
    アジアの経済危機への支援があげられる。日本政府はすでに資金援助をはじめさまざまな支援策を実施しているが、今後、日米をはじめとする各国が対アジア支援においてどの程度協力できるかは重要な課題である。

    経団連側:
    フェアー、フリー、グローバルな金融市場を確立することは重要だが、発展段階にある金融システムの場合、あまりにそうしたグローバル・スタンダードで締め付けると、業績の悪化した企業を支援するなど、これまで国内で金融機関に期待されてきた役割と両立しない点も出てくるのではないか。
    ドーナー財務担当アタッシェ:
    閉鎖的であった金融システムをいかに開放的システムに移行させるか、またその際、借り手である企業がどう対応するかは、難しい問題である。しかし、一つ言えるのは、そうした変化は政策によってもたらされるものではなく、市場の圧力により変化を余儀なくされるものだということである。

    経団連側:
    日銀が円安の進行を阻止するために円買いを行なった際、米国はそれを歓迎しつつも積極的に協力しなかったのは何故か。第2に、近年、日米通商摩擦が抑えられてきた理由として、米国の対外経済政策の主導権を財務省が握り、対日強硬派である通商代表部などを抑えてきたと言われるが、どうか。
    ドーナー財務担当アタッシェ:
    第1の点に関して、先のG7の声明では、為替レートは経済のファンダメンタルズを反映すべきであり、過度の変動は避けるべきと述べている。従って日本は、過度の円安によって対外不均衡を悪化させることは避けるべきだ。しかし、そのためには、内需主導による景気回復に努めることが重要である。
    後者については、財務省が日米の貿易摩擦が表面化しないよう特に努力したということはない。二国間経済問題ついて、米国ではどの省が特に担当するということはない。
    グリーンウッド公使:
    保険問題、港運問題など近年も日米は精力的に貿易交渉を進めている。それが大きな摩擦にならないのは、両国の共通利益が高い分野を選んで交渉しているからだと思う。

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