経団連くりっぷ No.78 (1998年5月14日)

OECD諮問委員会(委員長 行天豊雄氏)/4月21日

アジア危機の影響と日本経済の見通し
−ビスコOECD経済総局長との懇談会を開催


来日したビスコOECD経済総局長を迎えて、アジア経済危機の世界経済への影響と、日本経済の見通しについて説明を聞くとともに、種々懇談した。ビスコ総局長は、日本経済の再建には需要・供給両面における包括的な対策に加えて金融部門の改革を進めることにより、国民のコンフィデンスを回復することが重要であると指摘した。

  1. アジア危機の影響
  2. アジア経済危機の背景には、多くの国が通貨をドルにリンクするなかでドル高に伴い競争力が低下したことや、中途半端な金融の自由化、銀行に対する監督体制の不備、コーポレート・ガバナンスの脆弱性、企業財務の透明性の欠如などの問題が挙げられる。
    韓国やタイ、インドネシアなどのアジア5カ国の通貨切下げの影響で、OECD加盟国全体の経済成長は、98年に0.7%ポイント、99年には0.4%ポイント低下する。この5カ国の経常収支は98〜99年の間に700億ドル以上改善する見通しであり、この影響でOECD加盟国の経常収支は最大550億ドルの悪化が予想される。この影響は日米欧全体に及ぶが、欧米経済への影響は日本ほど大きくないと思われる。

  3. 日本経済の問題点
  4. 日本では内需が著しく低迷しており、景気後退のリスクがある。GDP成長率は98年が−0.3%、99年は1.3%と予測されている。アジアが輸出先の大きな割合を占める日本は、アジア危機により最大の影響を被っている。
    しかし、アジア危機以外にも、日本経済の低迷には次の2つの要因が考えられる。ひとつは97年の緊縮財政が予想以上に大きな影響を及ぼしたことである。財政改革は重要であるが、時期が悪かった。もうひとつは銀行部門の相次ぐ問題が国民のコンフィデンスを低下させていることである。
    日本の製造業は現在もすばらしい業績を上げており、日本経済の強みといえる。これを活かして再建を図らなければならない。

  5. OECDの対日勧告
  6. 現在、日本に求められるのは、需要・供給の両面からの包括的な対策である。まず内需を刺激するために、何らかの財政措置、特に恒久的な減税が必要である。またサービス部門の近代化にターゲットを絞った公共事業が必要である。同時にサプライ・サイドを強化するために、規制制度改革を推進すべきである。
    これに加えて、国民のコンフィデンスを回復するため、金融部門の再建が急務である。公的資金の適切な投入により不良債権の処理を進めると同時に、構造改革を進める必要がある。


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