経団連くりっぷ No.79 (1998年5月28日)

なびげーたー

景気は夜明け前が最も暗い

経済本部長 角田 博


景気がよくならないのは、バブル時代の重石を依然として引きずっているのと、国民・企業ともに将来への展望が見えないためである。

経団連では景気の実態を把握するために、毎月景気動向専門部会を開いて、政府、日銀と意見交換するとともに、およそ四半期に一度アンケート調査を実施している。

98年5月現在の景気判断調査によると、「政府・日銀の景気判断についてどう考えますか」という質問に対して、適切とする回答が、97年10月には20%を占めていたのが、98年1月に44%に上がり、今回の5月調査では70%になっている。つまり、皮肉なことに、政府・日銀は景気がいかに悪いかをようやく正しく認識するようになったと高く評価されているのである。

現在の業況について「悪い」という回答は、97年10月の73%から98年1月には66%へと減っていたものが、98年5月には一転して82%へ大幅に増え、業況は逆転し一段と悪化している。

総合経済対策の評価については、「規模自体は評価できるが、公共投資が中心であり、構造改革の視点が足りない」とか、「対策を打ち出すのが遅すぎる」という意見が多い。さらに今後必要となる中長期的対策としては、「法人税減税、所得税改革、規制緩和の推進、六大改革の推進、不良債権処理の促進、年金改革、雇用対策」等が上げられている。

5月7日に開催した、景気動向専門部会では、「4〜6月期はどうやっても景気はよくならず、期待しても駄目。7月以降16兆円におよぶ景気対策の効果が出て、次第に明るさが出る。しかしそれを来年以降の本格的な景気回復につなげられるかどうかは、中長期的な構造改革の道筋が示され、国民が将来に対して、確信を持てるようになるかどうかである」とのことであった。

3月の失業率は3.9%という史上最高になり、今の景気は夜明け前の最も暗い状態にある。景気が一段と悪化した理由としては、昨年秋の大型倒産、アジア通貨危機の勃発等が指摘されるが、過去のバブルの清算について、政府も銀行・企業も何とかこのまま乗り切れるのではないかという淡い期待があったことは否めない。その夢から覚め、不良債権のディスクロージャー、貸倒引当金の引き当てに加えて、不良債権の償却、流動化が進み始めたことは高く評価できる。今は日本経済のカネの面の脆弱性だけが強調され、モノの面が軽視されている。次のステップは、税制構造の見直し、金融ビッグバンの推進、年金改革等により、将来の経済構造改革の道筋を出来るだけ早く示すことにある。そうすれば日本は自信を取り戻し、再びモノの面での強い国際競争力を発揮できる。日本は何と言っても最大の債権国であり、世界経済の牽引力として果たすべき役割は大きい。


くりっぷ No.79 目次日本語のホームページ