経団連くりっぷ No.79 (1998年5月28日)

日本・インドネシア経済委員会(委員長 中村裕一氏)/5月12日

インドネシアの経済改革に臨むギナンジャール調整大臣と懇談会を開催


首都ジャカルタの暴動で揺れているインドネシアでは、IMFとの調整の下、ギナンジャール経済・財政・工業担当調整大臣を中心にして経済改革が進められている。このたび、5月上旬に東京で行なわれたインドネシア民間債務返済交渉に出席するため、ギナンジャール調整大臣、ハサン商工大臣、サビリン中央銀行総裁ほかが来日した。その際、ギナンジャール調整大臣から、経団連関係者に対して、インドネシアにおける改革の進捗状況について説明するとともに意見交換をしたいとの要請があったのを受けて、標記会合を開催した。席上、同大臣は、「経済改革は痛みを伴うが、断行する。それによって最終的には経済は回復へ向かう。」との見方を示した。

  1. ギナンジャール調整大臣説明概要
  2. ギナンジャール大臣

    1. 経済改革計画
    2. インドネシアでは今年3月に新政権が発足し、次の5つの課題に取り組んでいる。

      1. 財政改革
        IMFとの合意の下、政府支出を極力削減する改革を実施している。医療、保健、食糧などについては、最低限必要の補助金の支給は継続するが、燃料に対する補助金と公務員の給与は大幅に削減し、98年度(4月〜翌3月)の財政赤字を対GDP比3.8%程度に抑える。

      2. 金融改革
        金融引き締め政策に転換する。通貨ルピアの急激な下落は輸入インフレを引き起こしており、低所得層を中心に国民は苦しんでいる。中央銀行法を改正し、紙幣の増刷を抑制する。こうした政策の透明性を高めるため、州毎の主要な金融統計もインターネットを通じて公表する。

      3. 構造改革
        これまで市場原理に基づいた競争を妨げてきた規制や特定企業への優遇措置を廃止し、国内の生産コストを引き下げる。国民車に対する優遇税制を廃止し、日本などから「談合」と批判されてきた合板合同マーケティング協議会を解散した。関税率も引き下げており、現在、平均関税率は9%を下回っている。さらに外国企業による非銀行部門の出資比率制限を撤廃した。

      4. 銀行制度改革
        銀行部門において大胆なリストラを図る。銀行部門は長年にわたり確かに発展してきたが、監督制度がうまく機能していなかったため、不良債権を抱える銀行が増えた。政府は、98年1月、インドネシア金融再建庁(IBRA)を創設し、54の銀行に監督官を送り込んだ。そのうち、財務状態が悪い7銀行については、IBRAの監督下に置いた。現在、外国の会計事務所が銀行の監査を行なっており、この作業が終わり次第、IBRAは銀行部門の整理再編を進める。

      5. 民間債務問題
        民間企業が抱える債務の返済は重要な課題である。民間債務の合計額は730億ドルとなっており、その内訳は90億ドルが銀行部門、残り640億ドルが非銀行部門である。破産処理を効率的に進められるように「特別商事裁判所」を新設し、また民間債務の支払い円滑化のために為替調整基金「Indonesian Debt Restructuring Agency (INDRA)」を設立したいと考えている。

    3. 経済の見通し
    4. インドネシア政府としては、引き続き経済の自由化路線を堅持する。特別委員会を設け、IMF、世銀とも協力し、規制緩和を推進する。自由化は、中央政府のみならず、地方政府においても実施される。こうした過程で、既得権益に執着するグループからは抵抗が予想されるが、改革は進めなければならない。
      98年の成長率はマイナス4%程度になると予測される。経済改革が着実に実施されても、99年はゼロ成長に止まる見通しである。それでも、最終的には、6〜7%の成長に戻ると思う。この目標を達成するためには、他国からの協力が必要であり、特に日本からの支援を期待する。

    5. 政治改革
    6. 現在、国民は政治改革を強く求めている。インドネシア政府は学生と直接対話を行ない、彼らの意見にも耳を傾けてきた。経済の分野だけでなく、政治を含め社会の各層における改革が必要だと考える。ただし、学生運動が一般市民も巻き込む形でキャンパスの外に拡大することは望まない。暴動に発展した場合は、市民生活が危うくなる。政府としては、市民の安全と社会の秩序を守らなければならない。
      現下の社会不安は、97年7月以降、経済情勢が悪化したことに由来している。燃料などに対する補助金を削らなければIMFとの合意は守れない。その一方で、改革を進めれば社会不安が発生するというジレンマに直面している。
      改革は痛みを伴うものだが、特に政治改革については、議会に国民の声が反映されやすくするように制度を変える必要がある。こうした改革は政府が一方的に進めると批判されるので、憲法に定める民主的な手続きに従って実現しなければならない。経済改革、政治改革が実施され、その効果が表れれば、市民生活も落ち着きを取り戻すだろう。

  3. 懇談
  4. 経団連側:
    「円の国際化」についてどう考えるか。

    サビリン中央銀行総裁:
    「円の国際化」は非常に興味深いテーマである。数年前から、円が主要な決済通貨になることが期待されてきた。円の国際化が進めば、米ドルのみに依存した現状から脱却できる。ただし、円の国際化は、ここ数年進んでいないようにもみえる。
    インドネシア政府としても、米ドルとともに円が主要な国際通貨になることを望む。中央銀行は、米ドルだけでなく、円などでも外貨準備を保有する必要がある。また欧州では99年に統一通貨ユーロが誕生し、主要な国際通貨になるだろう。

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