経団連くりっぷ No.80 (1998年6月11日)

なびげーたー

21世紀に向けた立法のあり方

常務理事 中村芳夫


議員立法が活発に行なわれており、その迅速な対応から経済界の評価も高まっている。21世紀に向けた立法のあり方のひとつとして期待される。

  1. 議員立法の質的変化
  2. 議員立法が盛んである。従来の議員立法は、地域振興(例:横浜国際港都建設法)や資格(同:税理士法)、国民的支持があるもの(同:国民の祝日に関する法律)といった分野等で多いという特徴があった。
    しかし、現在増加している議員立法は、緊急の経済対策等差し迫った問題への対応として提案されている。第4次国民経済対策に盛り込まれた資本準備金による自己株式消却や土地の再評価が、議員立法によって実現したことは、その典型である。

  3. 議院内閣制との関係
  4. こうした動きに対し、議院内閣制の下では内閣提出法案が本筋であるとの声もある。しかし、この意見は、現行法の解釈として疑問がある上、今後の立法のあり方に悪影響を及ぼすのではないかと懸念される。
    現行憲法上、議員立法は、憲法第41条(国会は唯一の立法機関)の本旨に則った国会議員の立法活動である。一方、内閣の法案提出権は、憲法第72条(内閣の総理大臣の職務)の「議案」に、法案を含むものと解釈して初めて合憲とされている点に留意すべきである。なお、大統領制で大統領に法案提出権はない、米国で成立法の100%が議員立法であるのは当然としても、議院内閣制を採るイギリスでも、成立法における議員提出法案の割合は、22.0%であり、わが国の14.3%より高い。

  5. 21世紀に向けた立法のあり方
  6. 法律論・制度論は別にしても、内閣提出法案を重んずることの問題点は、多様な意見を封じ込めてしまう効果を持つことである。欧米諸国へのキャッチアップの時代には、あるべき政策は比較的明確で、欧米の制度を参考に、それを日本に導入していくことが重要であった。
    しかし、その時代は終わり、いまや、われわれ自身があるべき方向を模索し、自ら決定することが求められる。このような時代には、官僚機構からだけではなく幅広く知恵を募り、「全国民を代表する(憲法第43条)」議員が直接立法を行なうことが、より良い方向を見出すためにも、国民の自己責任を促す上でも、重要である。
    また、議員立法には、政省令への授権によって権益を自らに残しがちな官僚の手を経ないため、明確な立法が期待できる、迅速に対応できるといったメリットもある。
    いくつかの成功例は出てきているが、議院立法を活性化していくために、21世紀に向けた課題は多い。特に、議員や政党、国会図書館・衆参両院等立法補佐機構のスタッフは、十分とは言い難い。いわゆる「新社会資本」には、司法制度も含めたこうしたソフトの分野も含まれている。


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